令和2年9月8日号(臨時号)

海外商標ニュース

英国:EU離脱後の移行期間の終了に伴う欧州共同体商標の取り扱いについて再確認を

 英国がEUを離脱した後に設けられた移行期間が、2020年12月31日の経過により終了する。移行期間終了の時点において既に登録済みの欧州共同体商標については、移行期間終了後、自動的に同一内容の英国の国内商標登録が付与されるのに対し、移行期間終了の時点において係属中の商標出願については一定期間内に英国で再出願することが必要であるなど、別途の対応が必要となるものもある。移行期間の終了まで残り3ヶ月を切った今、再度、移行期間の終了に伴う欧州共同体商標の取り扱いについて確認しておくことが望ましい。

英国は2020年1月31日付でEUを正式に離脱したが、その際、2020年12月31日までの移行期間が設けられた。移行期間中は、離脱前と同様、EU法が英国内において効力を有するため、欧州共同体商標を初めとするEUの知的財産権は英国においても保護される。

移行期間は2020年12月31日の経過により終了するが、移行期間終了後の欧州共同体商標の取り扱いについては、英国・EU間の離脱協定により、以下のとおり定められている。

商標登録について
移行期間終了の時点において既に登録済みの欧州共同体商標、およびマドプロ経由でEU内での保護が認められた国際登録については、移行期間の終了後は英国内では保護されなくなる。
その代わり、これらの商標登録の権利者には、移行期間終了後に、これらの商標登録と同一内容の英国の国内商標登録が、英国知的財産庁(UKIPO)によって自動的に付与される。変更されるのは登録番号のみであり(通常の欧州共同体商標の場合は「UK009」が登録番号の前に付与されたもの、国際登録の場合には「UK008」が国際登録番号の前に付与されたものが、新たな英国商標登録の登録番号となる。)、それ以外の出願日、優先日、登録日、更新期限等は、全て元の権利と同一である。従って、権利者としては、特にUKIPOに対して手続きを行う必要はないことになる。
ただし、これらの権利についても、移行期間終了後に正しく英国商標登録が付与されたか否かを確認しておくことが望ましい。

係属中の商標出願について
これに対し、移行期間終了の時点において係属中の欧州共同体商標の出願およびマドプロ出願については、登録済みの商標の場合とは異なり、自動的な権利の付与は行われない。これらの出願については、移行期間終了(すなわち、2021年1月1日)から9ヶ月以内に、英国内において同一内容の商標出願を行った場合にのみ、出願日、優先日等が保持される。再出願の料金は、通常の英国の商標出願の料金と同じである。
従って、現時点で係属中の商標出願を有する者、および今後、移行期間の終了前までに新たに欧州共同体商標の出願を行う可能性がある者は、移行期間終了後にこのような再出願が必要になることに留意する必要があり、移行期間終了後も英国での保護を求める場合には、移行期間終了後に再出願手続きを遅滞なく行う必要がある。

更新について
前述のとおり、移行期間終了の時点において既に登録済みの欧州共同体商標、およびマドプロ経由でEU内での保護が認められた国際登録については、移行期間終了後に、これらの商標登録と同一内容の英国商標登録が自動的に付与され、更新期限も従前の権利と同一となる。従って、移行期間終了後に更新期限を迎えるものについては、自動的に付与される英国商標登録についての更新手続きを、UKIPOに対して行う必要がある。
なお、移行期間終了後、6ヶ月以内に更新期限を迎えるものについては、移行期間終了前に早期更新手続きを欧州連合知的財産庁(EUIPO)または世界知的所有権機関(WIPO)に対して行ったとしても、その更新手続きは、移行期間終了後に自動的に付与される英国商標登録との関係では無効であり、改めて、UKIPOに対して更新手続きを行う必要がある。移行期間終了前に欧州共同体商標またはEU内での保護が認められた国際登録の更新を行う際には、この点に留意する必要がある。

ライセンス契約について
移行期間終了の時点で登録済みである場合に自動的に付与される英国商標登録、および移行期間終了の時点で出願が係属中である場合に行う必要がある再出願は、いずれも元の登録・出願の内容を引き継ぐものの、法的には、元の登録・出願とは別個独立の登録・出願である。
従って、例えば商標ライセンス契約において、欧州共同体商標をライセンスの対象としている場合、移行期間終了後に自動的に付与される英国商標登録がライセンスの範囲に含まれるか否か、ライセンス契約の文言によっては疑義が生じる可能性もある。
欧州共同体商標をライセンスの対象に含む商標ライセンス契約については、再確認を行うとともに、文言に疑義がある場合には、可能であれば、相手方と再交渉して文言を明確にしておく等の対応をとることが望ましい。

以上のとおり、移行期間の終了に伴い、欧州共同体商標については別途の対応が必要となる場合もある。移行期間の終了まで残り3ヶ月を切った今、再度、移行期間の終了に伴う欧州共同体商標の取り扱いについて確認するとともに、対応が必要なものについては準備を進めておくことが望ましい。

文責: 乾 裕介 (弁護士、弁理士、ニューヨーク州弁護士)