令和8年1月30日号
著作権ニュース
海賊版サイトから漫画が配信される際に使用されたコンテンツ・デリバリー・ネットワークサービスの提供者に対して、出版権侵害の過失による幇助を理由に、約5億円の損害賠償責任を認めた事例
漫画の海賊版サイトについてコンテンツ・デリバリー・ネットワークサービスを提供することによって、同サイトの運営者による出版権の侵害を容易にした同サービスの提供者は、出版権の侵害を過失により幇助したものとして、出版権者に対して損害賠償責任を負う(東京地判令和7年11月19日(令和4年(ワ)第2388号))。
事案の概要
- 原告4社はいずれも日本の出版社であり、漫画家が制作した漫画(「本件著作物」)について、出版権(電磁的に記録媒体に記録された著作物の複製物を用いて公衆送信を行う権利を含む)の設定を受けた。
- 被告は、インターネットセキュリティ等を業とする米国法人である。
被告は、インターネットに接続されたサーバを東京や大阪を含む世界275の都市に設置・管理してコンテンツ・デリバリー・ネットワークサービスを提供していた。コンテンツ・デリバリー・ネットワークサービス(「CDNサービス」)とは、インターネット上にキャッシュサーバを分散配置し、エンドユーザに近い経路にあるキャッシュサーバから、画像や動画などのウェブコンテンツのキャッシュデータをオリジナルのウェブサーバ(オリジンサーバ)に代わって配信する仕組みである。
これにより、動画や画像等の容量の大きいコンテンツを迅速に配信することができ、また、大量アクセスによるオリジンサーバへの負荷を減らすことができる。被告のCDNサービスにおいては、静的コンテンツで構成されるウェブサイトのキャッシュ率(高ければ高いほどよいとされる)は95~99%であった。
被告は、本件著作物を含む漫画の著作物の海賊版サイトを運営していた者(「本件運営者」、後述)との間で契約を締結した上で、上記のコンテンツ・デリバリー・ネットワークサービスを提供していた。
- 本件運営者は、その運営する漫画の海賊版サイト(「本件ウェブサイト」)のサーバに、原告らに無断で本件著作物の複製データを記録した(「本件コンテンツ」)。本件ウェブサイトのエンドユーザ(日本国内のエンドユーザを含む)は、ストリーミング配信により、本件著作物を閲読することができた。
そして、本件運営者は、前記のとおり被告との間でCDNサービスの利用契約を締結した。これにより、本件ウェブサイトのエンドユーザは、被告が世界中に設置したキャッシュサーバのうち地理的に近接するキャッシュサーバから、本件コンテンツの自動的送信を受け、本件著作物を閲読できるようになった。被告のCDNサービスの性質上、エンドユーザが近接するキャッシュサーバに本件コンテンツのキャッシュデータが記録されている場合とそうでない場合があるが、キャッシュデータが記録されている場合には、本件運営者が運営している元々の海賊版サイトのサーバ(オリジンサーバ)を介することなく、そのキャッシュデータがそのまま配信されるため、効率がよかった。
このとおり、本件運営者は、被告が世界中に分散して設置したキャッシュサーバから本件コンテンツのキャッシュデータを送信することが可能となったところ、本件ウェブサイトのアクセス数は最大で月間合計3億回を超えていた。
- 原告らは、被告に対し、本件著作物について、米国ミレニアム著作権法第17編512条に基づく著作権侵害通知を送付した(「本件通知」)。
- 原告らは、本件運営者の本件ウェブサイトについて被告がCDNサービスを提供する行為により本件著作物の出版権が侵害された等と主張して、被告に対して、合計約5億円の損害賠償を求め、訴訟を提起した。
本判決
裁判所は、自動公衆送信の主体は本件運営者であり被告ではないとして、被告による出版権の侵害があったとは認めなかった。
しかし、裁判所は、被告は、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)3条1項に定める「関係役務提供者」に当たるところ、(1)で後述のとおり、「当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があ」ったという同項2号の要件、および、「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能」という同項柱書本文の要件を満たすから、損害賠償責任は制限されないと判断した。
その上で、裁判所は、(2)で述べるように、本件運営者による出版権の侵害を被告は過失により幇助したものと判断し、被告に対して合計約5億円の損害賠償を命じた。
(1)関係役務提供者として被告の損害賠償責任が制限されないこと
ア 情報流通プラットフォーム対処法3条1項2号の要件
- 本件通知の内容からすれば、著作権侵害を通知するものであることを理解することができた。
- 本件通知からは、本件ウェブサイトにおいて、本件コンテンツを含む4000タイトル以上ものコンテンツが全て無料で配信されていることが分かった。そうであるところ、漫画の複製データが全てのエンドユーザに対して無料で配信されることは通常考え難い。
- 本件通知からは、本件コンテンツを含む全てのコンテンツについて、無料の海賊版を意味する「Raw-Free」の記載や、ドメイン名の透かしが挿入されていることを読み取れた。
- 本件通知から読み取れる「Raw-Free」の記載や透かしと相まって、本件ウェブサイトがいわゆる海賊版サイトであることは明らかである。
- 以上のことからすれば、被告は、通常の注意を払っていれば、被告サービスを利用する本件ウェブサイトにおける本件コンテンツの配信により、本件著作物に係る他人の著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができたと考えられる。つまり、被告については、「当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった」ということができ、情報流通プラットフォーム対処法3条1項2号要件を満たす。
イ 情報流通プラットフォーム対処法3条1項柱書の要件
- 被告サービスの提供を停止すれば、本件コンテンツ(4タイトル)のみならず、本件ウェブサイト上の他の4000タイトル以上のコンテンツについても、被告のCDNサービスを通じた配信が停止される。しかし、本件ウェブサイトは海賊版サイトであり、本件コンテンツ以外のコンテンツについて、権利者の許諾を得ていたとは考えられない。
- 海賊版サイトでは、多くのコンテンツが配信されていることにより、より多くのアクセスを集め、その結果、各コンテンツを単体で配信するよりもアクセス数が増加するという関係にある。そうすると、本件コンテンツ以外のコンテンツの配信は本件コンテンツの配信による出版権の侵害を助長するものであり、それらのコンテンツについて被告のCDNサービスを通じた配信を停止することになったとしても、まったく無関係な情報の配信を停止するものとまではいえない。
- 被告のCDNサービスの提供が停止されれば、本件ウェブサイトからの被告のCDNサービスを通じた情報の送信は、内容にかかわらず将来にわたってできなくなる。しかし、本件運営者は、本件ウェブサイトについて、引き続き、本件運営者自身のオリジンサーバからコンテンツの配信をすることは妨げられないから、本件運営者の表現の自由は不当に制限されることもない。
(2)本件運営者による出版権の侵害を被告は過失により幇助したこと
- 被告サービスにより、本件運営者は多数の分散配置された被告のキャッシュサーバから本件コンテンツのキャッシュデータを送信することが可能となった。
- 本件ウェブサイトのアクセス数は最大で月間合計3億回を超え、これに対するキャッシュヒット率は95~99パーセントであった。
- このように、被告のCDNサービスの利用による本件運営者のサーバ(オリジンサーバ)の負荷の分散の程度は大きく、本件運営者は、同サービスにより、多くの配信を効率的に行うことができた。
- 被告は、CDNサービスの利用契約を締結する際の本人確認手続を簡略化する方針を採用していたが、何らの本人確認手続が行われなかったものと推認される。本件運営者は、強度な匿名性が確保された状況下で、効率的な配信をすることができた。
- 以上のとおり、被告は、本件ウェブサイトについてCDNサービスを提供することにより、本件運営者による原告らの出版権の侵害を容易にしたのであるから、本件運営者による原告らの出版権の侵害を幇助した。
- 被告は、本件通知により、本件著作物に係る著作権法上の権利(公衆送信権)が侵害されていることを知ることができた。
- 被告は、遅くとも本件通知を受領したから1か月を経過した時点で、原告らの出版権の侵害を回避するために被告のCDNサービスの提供を停止する義務を負っていたところ、これを怠った。
検討
- 本件は、自らは海賊版コンテンツをインターネット上で提供してはいないものの、他社による海賊版コンテンツの提供を効率的・容易にするためにサービスを提供した者が、出版権の侵害を幇助したものとして損害賠償責任を認めた数少ない事例である(過去に著作権等の侵害の幇助を理由に責任を認めた裁判例として、大阪地判平成15年2月13日(平成14年(ワ)第9435号)等)。なお、本件に関連して、知財高判令和4年6月29日(令和4(ネ)第10005号)やその原審判決である東京地判令和3年12月21日(令和3年(ワ)第1333号)において、漫画の海賊版サイトである本件ウェブサイトに広告を出稿していた者に対して、著作権の侵害を資金的に幇助したものとして、損害賠償を命じられている。
本件において被告のCDNサービスそれ自体は何ら違法なものではない。しかし、原告らから著作権法上の権利が侵害されている旨の本件通知がなされたにもかかわらず特段対処をしなかったこと、そして、被告のCDNサービスにより、本件著作物の海賊版である本件コンテンツをエンドユーザに効率的・容易に送信できるようになったことから、出版権の侵害の幇助を理由に、被告には損害賠償責任が認められた。
昨今、インターネット上に夥しい数の違法コンテンツが流通している。CDNサービス等のコンテンツ配信に関するサービスを提供する者において、同サービスに違法コンテンツが関係することを完全に回避することは容易ではない。しかしながら、違法コンテンツが関係してきた場合において、同違法コンテンツに関する著作権等の侵害通知を受けたときに、同違法コンテンツの削除等の特段の措置を講じなければ、損害賠償等の責任が発生し得ることに注意が必要ということになろう。
- 本件では、情報流通プラットフォーム対処法3条1項に定める損害賠償責任の制限要件について具体的に判断されているところ、その判断手法や要素等は今後の類似事件における損害賠償責任の制限の有無を検討する上で参考になると思われる。
なお、過去の知財高判平成22年9月8日(平成21年(ネ)第10078号)〔ファイルローグ事件〕においては、動画投稿サービスを管理運営する会社の損害賠償責任の制限について争点となったものの(当時はプロバイダ責任制限法)、同会社は「当該権利を侵害した情報の発信者」(現在の情報流通プラットフォーム対処法3条1項ただし書き)であるとして、そもそも損害賠償責任は制限されないと判断されている。
本判決の全文は
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文責: 今井 優仁(弁護士・弁理士)