医療機械器具の開発及び製造を行う原告は、2002年から製造販売しているバルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクターの主要な構成品であるYコネクターについて、その形態が原告の商品等表示として需要者の間で広く知られているところ、2022年に被告が製造販売承認を受けて製造販売を予定していたYコネクターの形態が原告Yコネクターの形態に類似し、その製造販売行為が出所の混同を生じさせるとして、不正競争防止法2条1項1号を理由に被告商品の製造販売の差止めを求めた。原審の東京地裁は、原告Yコネクターの形態に商品等表示性を認め、色彩や全体の寸法、各部位の寸法比率が共通し全体的に類似するとの印象を与えることから、被告Yコネクターの形態は原告Yコネクターの形態と類似し、出所の混同を生じさせるとして、製造販売が予定されていた被告商品について原告の請求を認容した。これに対し、控訴審において、知財高裁は原告Yコネクターの形態について商品等表示性は認めたものの、被告Yコネクターの形態は原告Yコネクターの形態とは具体的な色彩や素材、商品中央部分に設けられた部材の形状の違い等から全体として異なる印象を与えるとして非類似であると判断し、原審の判断を覆して原告の請求を棄却した(知財高判令和7年7月16日(令和7年(ネ)第10012号),原審:東京地判令和6年11月22日(令和5年(ワ)第70036号))。
事実関係
医療機械器具の開発及び製造を行う原告・被控訴人(株式会社グッドマン)は、2002年9月から、バルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクターを製造及び販売していた。当該商品の主要な構成品としてY字型の形状のYコネクターがあり、メインブランチ、サムホイール、サイドポート及びローテータから構成され、固定弁と止血弁を備えた二弁式Yコネクターにはサムホイールに止血バルブと固定バルブが設けられている(下図参照。原告によるコネクターのうちYコネクターについて、以下「原告Yコネクター」という。)。
医療機器メーカーの被告・控訴人(株式会社東海メディカルプロダクツ)は、2022年12月、自身の商品である二弁式のバルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクターについて製造販売承認を受け、承認を受けたうち一部の商品構成のコネクターについて製造及び販売を予定していた(被告によるコネクターのうちYコネクターについて、以下「被告Yコネクター」という。)。
原告は、被告Yコネクターの形態は、原告の商品等表示として需要者の間に広く知られるに至っている原告Yコネクターの形態と類似し、これを主要な構成要素とする被告商品の製造及び販売は原告の商品と混同を生じさせるとして、不正競争防止法2条1項1号を理由に被告商品の製造及び販売の差止めを請求した。
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原審
原告は、原告Yコネクターの形態の特徴として、以下の(ア)~(カ)の点を挙げた(以下「特徴(ア)~(カ)」という。)。原告は、これらの特徴と比較して、他社商品のYコネクターには異なる特徴を持つ形態が採用されており、原告商品が発売される以前及びその後も原告Yコネクターに酷似した形態のYコネクターが市場に多く見られるという事情はなく、医療現場ではスタンダードな商品として需要者に認知されていたと主張した。そして、2002年9月の発売以降、二弁式Yコネクターの分野において2008年度及び2020年度には販売数量及び売上金額ともに9割以上のシェアを獲得する等して、原告Yコネクターの形態は、需要者において広く知られるに至っていたと主張した。
控訴審
商品等表示性
知財高裁も、概ね原審と同様に、商品等表示性を認めた。具体的には、原告Yコネクター以外の二弁式Yコネクターは、透明感を残しつつ全体が青色に着色されているか、サムホイールやローテータの内部に着色されたリングや部材を有しているから、オープナーのみを透明かつ単色(黄色)で着色し、それ以外を全て無色透明とすること(特徴(エ)。なお、ここでは「黄色」と特定されている。)は、原告Yコネクターの形態として他の同種商品とは異なる顕著な特徴の一つであると認定した。また、各部位の寸法比も商品形態の一部を構成するものであるとした上で、さらに二弁式Yコネクターにおけるサムホイール及びローテータの長さは必ずしも一義的には定まらず、全長に対する各部位の寸法比も当然に一致するものではなく、他社の二弁式Yコネクターにおいて、原告Yコネクターと概ね同様の寸法比を有する被告商品以外の他社製二弁式Yコネクターはなかったと認定して、このような全長と各部位との寸法比(特徴(オ))も、原告Yコネクターの形態として顕著な特徴の一つであると認定した。さらに、2008年頃以降の二弁式Yコネクター市場における原告商品の国内シェアは、少なくとも5割以上を維持し続けているものと推認されるとし、医師等はバルーン拡張式血管形成術を行う際に、二弁式Yコネクターをいったんは目視した上で操作することや、原告商品のカタログ等にも原告Yコネクターの形態が掲載されているといった事情を挙げて、2008年頃以降、原告Yコネクターの全体の形態は他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しかつ周知になっているとして、原告Yコネクターの商品形態について商品等表示性を認めた。
原告商品の形態と被告商品の形態との類似性
知財高裁は、原審とは異なり、原告Yコネクターと被告Yコネクターの形態との類似性を否定した。
知財高裁は、原告Yコネクターと被告Yコネクターとは、全体的な構成が共通しているほか、オープナーが着色されていること、その他の部分の多くが無色透明であること、全長が約88㎜であること、サムホイール、メインブランチ及びローテータの寸法比が概ね1:2:1であることが共通していると認定した。しかし、このうち全体的な構成自体はYコネクターの技術的な機能に由来し、他の同種製品も基本的には同様の構成を有するものであるから、そのことを認識している需要者に対する出所識別標識としての機能を果たすものとは認められないと述べた。
さらに、原告Yコネクターと被告Yコネクターの形態の相違点として、知財高裁は、主に以下の2点を挙げた。
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文責: 本阿弥 友子(弁護士)