令和7年9月30日号

商標ニュース

知財高裁が、原告の医療機器の形態について商品等表示性を認め、被告商品の形態が原告商品の形態に類似するとして不正競争行為の成立を認めた原審の判断を覆した事例

 医療機械器具の開発及び製造を行う原告は、2002年から製造販売しているバルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクターの主要な構成品であるYコネクターについて、その形態が原告の商品等表示として需要者の間で広く知られているところ、2022年に被告が製造販売承認を受けて製造販売を予定していたYコネクターの形態が原告Yコネクターの形態に類似し、その製造販売行為が出所の混同を生じさせるとして、不正競争防止法2条1項1号を理由に被告商品の製造販売の差止めを求めた。原審の東京地裁は、原告Yコネクターの形態に商品等表示性を認め、色彩や全体の寸法、各部位の寸法比率が共通し全体的に類似するとの印象を与えることから、被告Yコネクターの形態は原告Yコネクターの形態と類似し、出所の混同を生じさせるとして、製造販売が予定されていた被告商品について原告の請求を認容した。これに対し、控訴審において、知財高裁は原告Yコネクターの形態について商品等表示性は認めたものの、被告Yコネクターの形態は原告Yコネクターの形態とは具体的な色彩や素材、商品中央部分に設けられた部材の形状の違い等から全体として異なる印象を与えるとして非類似であると判断し、原審の判断を覆して原告の請求を棄却した(知財高判令和7年7月16日(令和7年(ネ)第10012号),原審:東京地判令和6年11月22日(令和5年(ワ)第70036号))。

事実関係
医療機械器具の開発及び製造を行う原告・被控訴人(株式会社グッドマン)は、2002年9月から、バルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクターを製造及び販売していた。当該商品の主要な構成品としてY字型の形状のYコネクターがあり、メインブランチ、サムホイール、サイドポート及びローテータから構成され、固定弁と止血弁を備えた二弁式Yコネクターにはサムホイールに止血バルブと固定バルブが設けられている(下図参照。原告によるコネクターのうちYコネクターについて、以下「原告Yコネクター」という。)。 
医療機器メーカーの被告・控訴人(株式会社東海メディカルプロダクツ)は、2022年12月、自身の商品である二弁式のバルーン拡張式血管形成術向けカテーテル用コネクターについて製造販売承認を受け、承認を受けたうち一部の商品構成のコネクターについて製造及び販売を予定していた(被告によるコネクターのうちYコネクターについて、以下「被告Yコネクター」という。)。
原告は、被告Yコネクターの形態は、原告の商品等表示として需要者の間に広く知られるに至っている原告Yコネクターの形態と類似し、これを主要な構成要素とする被告商品の製造及び販売は原告の商品と混同を生じさせるとして、不正競争防止法2条1項1号を理由に被告商品の製造及び販売の差止めを請求した。

原審
原告は、原告Yコネクターの形態の特徴として、以下の(ア)~(カ)の点を挙げた(以下「特徴(ア)~(カ)」という。)。原告は、これらの特徴と比較して、他社商品のYコネクターには異なる特徴を持つ形態が採用されており、原告商品が発売される以前及びその後も原告Yコネクターに酷似した形態のYコネクターが市場に多く見られるという事情はなく、医療現場ではスタンダードな商品として需要者に認知されていたと主張した。そして、2002年9月の発売以降、二弁式Yコネクターの分野において2008年度及び2020年度には販売数量及び売上金額ともに9割以上のシェアを獲得する等して、原告Yコネクターの形態は、需要者において広く知られるに至っていたと主張した。

  1. (ア) 断面径の大きさは、サムホイール、ローテータ、メインブランチの順である。
  2. (イ) サムホイール部は、円柱形状のスクリューと側面視T字状のオープナーを備えている。
  3. (ウ) 止血弁と固定弁を内蔵する二弁式となっている。
  4. (エ) オープナー以外は全て無色透明であるのに対し、オープナーは透明かつ単色で着色されている。
  5. (オ) 全長が約88㎜であり、全長、サムホイール、メインブランチ及びローテータの上端部からYコネクター下端部までの長さの概ねの比率が4:1:2:1である。
  6. (カ) メインブランチの下端から約8㎜の位置に約60度斜め上方へ分岐するサイドポートが設けられている。
さらに、被告Yコネクターには、メインブランチとサイドポートの分岐点付近に円形の支持部が設けられている点及びオープナーの下部と止血バルブとの間に透明の円盤状の部材が設けられている点で原告Yコネクターと差異があるものの、それらは微細なもので、全体的な形態的特徴の類似性を凌駕するほどのものではないとして、両Yコネクターの形態は類似すると主張した。そして、医師を中心とする需要者は商品の使用感や操作感を確認することで商品の形態を認識するのであるから、需要者に出所の混同を生じさせるおそれや原告・被告間に何等かの緊密な営業上の関係があると誤信させるおそれがあると主張した。

これに対し、被告は、二弁式Yコネクターはその機能上の要請から外観は概ね似通ったデザインとなり、原告が主張する形態的特徴は商品の機能及び効用を実現するために不可避的な構成に由来するものであり、また商品の寸法及びサイズ感は原告が独占できるものではないとして、原告Yコネクターの形態に特別顕著性はなく、また、原告商品の需要者における商品選択の基準は商品の操作性や機能性等にあるため、商品形態には原告の出所を示すものとしての周知性は認められない等と反論した。さらに、原告が主張する形態の類似性については、二弁式Yコネクターとして必然的に似た形状やサイズ感にならざるを得ない一方で、被告Yコネクターは他の形態を選択し得る部分については原告Yコネクターと異なる特徴を有しており、誤認混同されるおそれもないと主張した。

東京地裁は、二弁式Yコネクターの性質上技術的な機能及び効用に由来してその商品形態には一定の制約があり、特に特徴(ア)及び(ウ)は他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来するものの、オープナー以外が全て無色透明で、オープナーは透明かつ単色で着色されている点(特徴(エ))と、全長が約88㎜であり、全長、サムホイール、メインブランチ及びローテータの概ねの比率が4:1:2:1である点(特徴(オ))は、その形態に選択の幅があるといえ、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴であると認めた。周知性についても、二弁式Yコネクターに限定した市場データではないもののYコネクターを含む市場において、原告が製造するYコネクター(原告が販売するYコネクターの約70%は本件の原告商品であった。)は2008年以降、販売数量、販売金額ともに5割以上のシェアを獲得し、2022年には販売数量で7割、販売金額で約8割のシェアを獲得していたことから、原告Yコネクターの形態は原告によって長期間独占的に使用され、2008年頃には周知性を獲得しその後も周知性が維持されているとして、商品等表示性が認められた。そして、原告Yコネクターと被告Yコネクターとでは、寸法や色彩といった構成が類似していることから、需要者である医療従事者は両Yコネクターが全体的に類似するとの印象を受ける反面、被告が主張する相違点は些細なものにすぎないとして、類似性を認めた。さらに、原告商品が長年にわたって高いシェアを維持しており、原告商品が上市して以降原告Yコネクターと類似する商品が市場に全く存在していないという状況から、原告Yコネクターを全体的な寸法及び全体が無色透明でオープナーの色彩が暖色系のものという形態的特徴で認識している者が存在する可能性があるとして、また商品のカタログやパンフレットには製造販売業者が記載されてはいても各企業の関係性までは明記されていないことから、出所について誤認混同が生じるおそれがあるとした。以上より、被告が製造及び販売を予定している商品について、製造及び販売の差止めが認められた。

控訴審
商品等表示性
知財高裁も、概ね原審と同様に、商品等表示性を認めた。具体的には、原告Yコネクター以外の二弁式Yコネクターは、透明感を残しつつ全体が青色に着色されているか、サムホイールやローテータの内部に着色されたリングや部材を有しているから、オープナーのみを透明かつ単色(黄色)で着色し、それ以外を全て無色透明とすること(特徴(エ)。なお、ここでは「黄色」と特定されている。)は、原告Yコネクターの形態として他の同種商品とは異なる顕著な特徴の一つであると認定した。また、各部位の寸法比も商品形態の一部を構成するものであるとした上で、さらに二弁式Yコネクターにおけるサムホイール及びローテータの長さは必ずしも一義的には定まらず、全長に対する各部位の寸法比も当然に一致するものではなく、他社の二弁式Yコネクターにおいて、原告Yコネクターと概ね同様の寸法比を有する被告商品以外の他社製二弁式Yコネクターはなかったと認定して、このような全長と各部位との寸法比(特徴(オ))も、原告Yコネクターの形態として顕著な特徴の一つであると認定した。さらに、2008年頃以降の二弁式Yコネクター市場における原告商品の国内シェアは、少なくとも5割以上を維持し続けているものと推認されるとし、医師等はバルーン拡張式血管形成術を行う際に、二弁式Yコネクターをいったんは目視した上で操作することや、原告商品のカタログ等にも原告Yコネクターの形態が掲載されているといった事情を挙げて、2008年頃以降、原告Yコネクターの全体の形態は他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しかつ周知になっているとして、原告Yコネクターの商品形態について商品等表示性を認めた。

原告商品の形態と被告商品の形態との類似性
知財高裁は、原審とは異なり、原告Yコネクターと被告Yコネクターの形態との類似性を否定した。
知財高裁は、原告Yコネクターと被告Yコネクターとは、全体的な構成が共通しているほか、オープナーが着色されていること、その他の部分の多くが無色透明であること、全長が約88㎜であること、サムホイール、メインブランチ及びローテータの寸法比が概ね1:2:1であることが共通していると認定した。しかし、このうち全体的な構成自体はYコネクターの技術的な機能に由来し、他の同種製品も基本的には同様の構成を有するものであるから、そのことを認識している需要者に対する出所識別標識としての機能を果たすものとは認められないと述べた。
さらに、原告Yコネクターと被告Yコネクターの形態の相違点として、知財高裁は、主に以下の2点を挙げた。

  1. ①原告Yコネクターはオープナーのみが透明かつ黄色に着色され、他の部材は全て無色透明であるのに対し、被告Yコネクターはオープナーはシボ加工された透明感のない素材が用いられオレンジ色に着色され、スクリューの下部及びローテータの上部に同色のオレンジ色に着色されたCリングを有する。
  2. ②原告Yコネクターのメインブランチとサイドポートの接続部分には、水かき様(略二等辺三角形状)のリブが設けられているのに対し、被告Yコネクターには、全体として円形状を構成する3つの扇形状の支持部が設けられ、扇形状の支持部にはシボ加工が施され、「TMP」「Smart」の文字が二行にわたって成形されている。
  3.   
  知財高裁は、オープナー以外を無色透明とすることは技術的な機能に由来するものであって、原告Yコネクターと被告Yコネクターとの類否を判断する事項として大きなものとは認め難く、他方、相違点①は、需要者に与える印象の差異が小さいとはいえないとした。また、相違点②についても、被告Yコネクターに設けられた円形状の支持部は、商品全体の中央に位置し、その直径もメインブランチの長さの半分程度に達し、全体として被告Yコネクターの形態に安定した印象を持たせるものであって、原告Yコネクターの形態が持つ全体としてスリムな印象とは異なるものであるとし、さらに、オープナーの形状、スクリューやローテータに設けられた凹凸の数や形状、アタッチメント取付用のフランジ等他の外観上の差異も挙げた。
以上から知財高裁は、被告Yコネクターは、原告Yコネクターの特徴(エ)についてこれとは異なる特徴を有しており、特徴(オ)については全体の寸法と各部の概ねの寸法比率が原告商品の顕著な特徴であるとしても、その点が共通するからといって直ちに商品等表示としての類似性が肯定されるものではなく、むしろ需要者は上記の相違点に基づいて被告Yコネクターについて原告Yコネクターとは異なる印象を抱くといえ、全体的に類似のものと受け取るおそれがあるとまで認めることはできないと判断した。
結論として、被告Yコネクターの形態は、原告Yコネクターの形態と類似するものとは認められないと判断し、原判決中被告の敗訴部分を取り消した上で、原告の請求を棄却した。

検討
商品形態の類否判断に際しては、形態的な特徴が共通するというだけでは足りず、判決でも「商品等表示としての類似性」が認められなければならないと指摘されているように、全体的な観察による出所混同のおそれを基準に判断される。本件では、原告Yコネクターの形態に商品等表示性が肯定されるとしても、他社の二弁式Yコネクターの形態とも比較すると部材の色彩及び素材の違いやメインブランチとサイドポートの接続部分という目立つ部位の違いを重視して類似性を否定した知財高裁の判断は妥当なものと考えられる。一方で、原審では、着目した点が異なるためともいい得るものの、これらの差異は捨象されており、(商品等表示としての)類似性を一つの要件とすることの意義が若干薄れているような印象を受ける。

 本判決の全文はこちら(原審)及びこちら(控訴審)(外部ウェブサイト)

文責: 本阿弥 友子(弁護士)