令和4年5月24日号

不正競争ニュース

知財高裁が、「オリゴ糖100%」などの表示について品質誤認表示であると認定し、ライバル会社からの合計6500万円以上の損害賠償請求を認めた事例

 実際には、オリゴ糖成分が53.29%の商品について、「オリゴ糖100%」などの表示を使って宣伝を行っていた被告に対し、これが不正競争防止法2条1項20号の品質誤認表示であるとしてライバル会社が損害賠償を求めたところ、知財高裁はこれを認め、合計6500万円以上の損害賠償を命じた(知財高裁令和4年1月27日判決(令和3年(ネ)第10018号)

事案の概要

 原告株式会社北の達人コーポレーションは、平成24年ころから「カイテキオリゴ」という名称のオリゴ糖含有食品(原告商品)を販売しており、被告株式会社はぐくみプラスは、平成26年7月から「はぐくみオリゴ」の名称でオリゴ糖類食品(被告商品)を販売している。

・品質誤認表示について

 被告は、以下のような宣伝文句(被告表示)を使って被告商品を宣伝していた。

「オリゴ糖100%」,「100%オリゴ糖」,「純粋100%オリゴ糖」,「純度100%」,「100%高純度のオリゴ糖」,「オリゴ糖 100 パーセント」,「オリゴ糖100」,「100% 高純度」,「天然由来100%オリゴ糖」,「濃密な5種のオリゴ糖を独自ブレンドした自然由来100%のはぐくみオリゴ」

 しかし、実際に被告商品に含まれるオリゴ糖成分は、53.29%であった。

 被告は、平成28年11月に原告からの抗議を受け、自らのサイトから被告表示を削除し、平成30年2月にはアフィリエーターに対しても「オリゴ糖100%使用」、「オリゴ糖のみ使用」などの記述をやめるよう求め、そのような表示を訂正しない場合には、契約を解除する旨通知した。

・信用棄損行為について

 被告の従業員が平成28年10月8日に行われたA8フェスティバルにおいて、被告ブースを訪れたアフィリエーターを装った原告社員に対し、以下のような発言をした。

「原告の販売するカイテキオリゴはオリゴ糖100%じゃないが,被告の販売するはぐくみオリゴはオリゴ糖100%であり,良品である」,
「カイテキオリゴは糖度が低いので,はぐくみオリゴの方が品質が良い」

 原告は、これについて被告に抗議の書面を提出したところ、被告は弁護士を通じて「一部の従業員において原告指摘のような発言があったようだ」と回答した。
 また、被告の担当者は、本件の訴えが提起された後、日本流通産業新聞に対して、従業員が上記イベントにおいて「オリゴ糖100%」等の発言をしたことは事実であるとコメントした。

・争点
① 被告が品質誤認表示行為(不正競争防止法2条1項20号)を行ったか。
② 被告が信用毀損行為(同項21号)を行ったか。
③ 原告の主張が信義則違反か。
④ 損害の発生及び額
⑤ 表示の抹消等の必要性

 地裁は、被告表示の一部については品質誤認表示ではないとしたものの、「オリゴ糖100%」などの表示は、需要者に対し、被告商品の100%またはそれに近い部分がオリゴ糖で構成されているとの印象を与えるものであって、被告商品の品質について誤認させるような表示であるとした。また、被告は平成30年2月にはアフィリエーターに対しこのような表示をやめるよう要求したが、それでもアフィリエーターが直ちにこれを守るとはいえないため、30年11月までは従前の表示が撤回されたとはいえず、品質誤認表示が続いていた、とした。
 一方、信用毀損行為については、原告社員のレポートは必ずしも信用できるものとはいえず、被告従業員が原告主張のような発言をしたと認めるに足りない、としてこれを認めなかった。
 損害については、被告商品の期間中の売上を基準として、被告商品について「オリゴ糖100%」というのが主たる需要者の購入動機となっていないこと、原告商品のシェアが24.4%程度であることなどを挙げ、97%の覆滅を認め、結果として1835万7803円を認めた。

本判決

 本判決において、知財高裁は、品質誤認表示については地裁の判断を踏襲したものの、信用毀損行為については、原告社員のレポートは信用でき、その供述に不合理なところもない、さらに被告の原告書面に対する回答、新聞でのコメントもこの事実を裏付けている、として信用毀損行為があったことも認めた。
 品質誤認表示の損害については、地裁と異なり、覆滅割合を91%として、6597万5573円を認めた。また、信用毀損行為については影響が残っていた期間の売上を基準として、99%の覆滅を認め、292万5280円の損害を認めた。

検討

 本事案で見られたような品質誤認表示は世の中にありふれていると考えられ、本件のようにライバル会社に多額の損害が認められるのであれば、競合他社の品質誤認表示を積極的に訴えていこうという会社が出てきてもおかしくないように思われる。
 
同様の事件として、過去には、2億4000万ほどの損害が認められた「氷見うどん」事件(名古屋高裁金沢支部平成19年10月24日判決、富山地裁高岡支部平成18年11月10日判決)、「高度さらし粉」事件(大阪地裁令和元年5月27日判決、大阪高裁令和2年1月10日判決)、「浄水カートリッジ」事件(東京地裁令和3年3月29日判決)などが挙げられる。

 なお、本件においても、過去の判決においても、いずれも不正競争防止法5条2項の推定規定が適用されて損害が計算されているが、この点については学説上このような態様の事件においては被告の利益が原告の損害であると推定する基礎がなく、同項を適用すべきではないとの考えも強く主張されている。

本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

第一審判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責: 窪田 英一郎(弁護士・弁理士)