令和5年10月12日号

商標ニュース

知財高裁が、単色の色彩のみからなる商標の登録を拒絶する特許庁の判断を支持した事例

 単一の色彩のみからなる商標の出願が識別力を欠くとして登録拒絶され、これに対する不服審判請求も不成立とされたため出願人が審決の取消を求めた事案において、知財高裁は、当該出願は登録要件を満たさないという特許庁の判断を是認した(知財高裁判決令和5年1月24日(令和4年(行ケ)第10062号))。

事案の概要
 
 本件は、原告である三菱鉛筆株式会社の単一の色彩のみからなる商標の出願が、識別力を欠くとして登録拒絶され、これに対する不服審判請求も不成立とされたため、出願人が特許庁の審決の取消を求めた事案である。
 特許庁は、本願商標は、商標法3条1項3号に該当し識別力を欠き、また、3条2項により使用により識別力を獲得するに至ったともいえず独占適応性もないことを理由に、本願商標についての拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした。そのため、本判決でも、商標法3条1項3号、同3条2項の該当性が争点とされた。
 
本件商標(商願2015―29864 )

商標の詳細な説明:
商標登録を受けようとする商標は「DICカラーガイドPART2(第4版)2251」のみからなるものである 
 
指定商品 
16類:鉛筆(色鉛筆を除く。)
 
本件に至るまでの経緯の概要は以下のとおりである。 

平成27年4月1日         本件商標出願(商願2015-029864号)
平成30年11月28日 手続補正書(指定商品を16類「鉛筆、シャープペンシル、シャープペンシルの替え芯、鉛筆削り(電気式のものを除く。)」から「鉛筆(色鉛筆を除く)」に補正)
令和元年7月12日 拒絶査定通知
令和元年10月17日 拒絶査定不服審判を請求(不服2019-13864号)
令和4年4月13日 請求不成立審決
令和4年6月22日 本件審決取消訴訟提起(令和4年(行ケ)第10062号)

 なお、本願商標以外に、原告の商標として、複数の色彩のみからなる商標について以下のような商標が登録されている。

登録第6078470号 
 
 
登録第6078471号 
 
 
知財高裁判決
 知財高裁は以下のとおり、まず、商標法3条1項3号該当性を肯定し、本願については、本来的な識別力がないと判断した。
  • 一般に、商取引においては、商品の外装等の商品又は役務に関して付される色彩は、商品又は役務のイメージ、美感等を高めるために多種多様なものの中から選択されて付されるものにすぎないから、そのようにして付された色彩が直ちに商品又は役務の出所を表示する機能を有するというものではない。
  • 本願商標についてみても、本願商標は、輪郭のない単一の色彩のみからなるものであるところ、JIS系統色名の区分における位置付けとしては、「ごく暗い赤」「暗い赤」「暗い灰みの赤」の3区分の境界領域に位置するとされ、基本色名としても、「紫みの赤」に近い領域に位置するとされ、マンセル近似値をみても、当該近似値が近いボルドー、バーガンディー等が存在するなど、その近似色は、無数に存在するものと認められる。現に、取引の実情をみても、本願商標の近似色は、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具に関して、広く使用されているものである。
  • 以上によると、本願商標は、本件指定商品である鉛筆(色鉛筆を除く。以下同じ。)について使用される場合であっても、本願商標に接した需用者及び取引者をして、本願商標に係る色彩が単に商品(鉛筆)のイメージ、美感等を高めるために使用されていると認識させるにすぎないものと認めるのが相当である。そうすると、本願商標は、本件指定商品である鉛筆の特徴(鉛筆の外装色等の色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということができる。

 
 その上で、商標法3条2項にも該当せず、以下のとおり使用により識別力を獲得するに至ったとも認められないと判示した。
  • 商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する単一の色彩のみからなる商標が同条2項に規定する「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に該当するというためには、当該商標が使用をされた結果、特定人の業務に係る商品又は役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力又は自他役務識別力を獲得していることが必要であり、さらに、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみても許容される事情があることを要すると解するのが相当である。
  • 原告は、明治20年に創業した筆記具の大手企業(当時の商号・眞崎鉛筆製造所)であり、昭和27年、商号を現在のものに変更し、昭和33年に「ユニ(uni)」と称する鉛筆の製造販売を開始し、その後、昭和41年には「ハイユニ」と称する鉛筆の製造販売を開始し、現在は、「ユニスター」と称する鉛筆の製造販売も行っている。原告商品(ユニ、ハイユニ及びユニスター)には、鉛筆の6側面の大部分に基調色として本願商標に係る色彩が付された上、鉛筆の後端部には、黒色(ユニ及びユニスターにつき)又は黒色及び金色(ハイユニにつき)が配されており、また、鉛筆の6側面のうち1面には、「MITSU-BISHI」、「uni」、「Hi-uni」、「uni☆star」等の金色様の文字が刻印されている。昭和30年代から、数多くの新聞、雑誌、テレビ、インターネット、イベント等において、原告又は原告商品についての記事が掲載され、また、本願商標を付した原告商品についての広告がされてきた。原告は、平成27年度の鉛筆の市場において、53.7%の市場占有率を有しており、株式会社トンボ鉛筆は、原告に次ぐ27.4%の市場占有率を有している。原告商品の販売については、平成13年から平成27年までの実績で、ユニが年間1200万本から1500万本の間、ハイユニが年間200万本から300万本の間である。
  • アンケート調査において、(a)鉛筆を使用する子を持つ親(20歳から59歳までの母親)及び(b)自身が鉛筆を使用している者(20歳から69歳までの男女)の1200名(20歳代、30歳代、40歳代、50歳代及び60歳代の男女各100名ずつ(合計1000名)及び母親200名)を対象として、「あずき色の色彩画像」として別紙商標目録記載1に相当する色彩を見せた上、「先ほどの画像は、とある鉛筆のブランドに使用している色彩です。画像を御覧になり、あなたは、何というブランドを思い浮かべましたか。以下の回答欄に御自由にお書きください。」との質問をしたところ、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、uni等)を想起して回答した者は、全体の43.4%であった。
  • 前記認定事実によると、原告商品は、相当の長きにわたり新聞等の記事において取り上げられ、また、様々な媒体において広告がされてきたのであるから、原告商品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当程度の認知度を有しているものと認められるが、前記認定のとおり、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩及び文字も付されているところ、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具について、ボルドー及びバーガンディーを含む本願商標の近似色が広く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示す金色様の文字と併せて、当該原告商品が原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。
  • 鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんでいる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。
  • 本願商標については、これが使用された結果、原告の業務に係る商品であることを表示するものとして需用者の間に広く認識されるに至り、その使用により自他商品識別力を獲得しているといえないから、原告による本願商標の独占使用を認めることが公益上の見地からみて許容される事情があるか否かについて判断するまでもなく、本願商標が商標法3条2項に規定する商標に該当するということはできない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
 
 
検討
 
(1)商標法3条1項3号について 
 本判決では、①本願商標と近似値が近いボルドー、バーガンディー等が存在するなど、その近似色は、無数に存在し、本願商標の近似色は、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具に関して、広く使用されていること、②本願商標は、本件指定商品である鉛筆について使用される場合であっても、本願商標に接した需用者及び取引者をして、本願商標に係る色彩が単に商品(鉛筆)のイメージ、美感等を高めるために使用されていると認識させるにすぎないことを理由に、商標法3条1項3号に該当し識別力がないと判断した。
 判決も指摘するとおり、採用した色彩には無数の近似色が存在することや、色彩が美観の向上のために用いられていることをその根拠としていることに照らすと、単一の色彩のみからなる商標について識別力があるとされるのは限定的な場合であると考えられる。
 
(2)商標法3条2項について
 また、本判決は商標法3条2項については、需要者は、本願商標のみから出所を認識することはなく、他の色彩や、文字等から原告の出所を認識することや、広告や商品についての商標の使用例等についても、本願商標のみから原告の出所を認識するものとはいえないとしている。
 すなわち、原告商品を相当程度認知度を有する商品として認めつつ、「本願商標の色彩」それ自体を需要者が出所識別標識として認識していると認めることは困難であるというような判断がされている。
 なお、原告と株式会社トンボ鉛筆とで80%超の市場占有率を有するにもかかわらず、アンケートにおいて、質問にある色彩は三菱鉛筆の使用する色彩であると回答する回答者がその過半数にも満たなかったことも、識別力を獲得するに至っていないという判断の有力な根拠となっているように思われる。
 
(3)私見
 企業のイメージカラーの定着などブランド戦略としても、単色の色彩のみからなる商標登録の需要はあるように思われるものの、国内において、単色の色彩のみからなる商標の登録が認められた例は、現時点ではないようである。三菱鉛筆の使用する色彩は、「ユニ色」と称されることもあり、ある程度の認知度はあるように思われるものの、結論として、識別力は認められなかった。そして、前記の本判決の判示を見る限り、今後も単色の色彩のみからなる商標の登録の可能性はかなり低いものと考えられる。
 すなわち、単色の色彩を使用した商品には、その商品の出所を示す表示(会社名、ブランド名、商品名等)が伴って使用されることから、その単色の色彩のみから、特定の出所を識別できるようになることも困難であると考えられる。この点、本判決でも、原告は、「商品のうちの狭い部分に付された文字商標のみによって商品の出所を認識するのではなく、商品の大部分を占める本願商標をもって商品の出所を認識する」と主張していた。確かに、鉛筆のような安価で小型の製品では、需要者は、文字に着目せず、大部分を占める色彩を出所標識として認識し取引を行うと考えられる場合もあるように思われるが、前記のとおり、原告商品に付された本願商標以外の色彩及び文字の存在等から、使用された結果識別力を獲得したとは認められていない。この点、別件の令和4年9月9日審決(不服2021―003680号)では、トンボ鉛筆の単色の色彩からなる商標についても、ポップや什器の近くの「Tombow」の表示等の存在から、トンボ鉛筆が使用している緑色が独立して出所表示として機能しているとはいえないと判断されていることも参考になる。
 なお、本色彩に関し実施されたアンケートは、前記のように自由回答で行われたところ、回答者の43.4%が本願の色彩を原告の出所表示と認識できたものの、現代においては鉛筆を使用する傾向が減っているためか、識別力を肯定するには足りない数字となってしまったように見受けられる。そのため、本判決は独占適応性について判断していないが、本判決と同時期の裁判例(令和5年1月31日、令和4年(行ケ)第10089号)は、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること(独占適応性)を要すると判示しており、仮に、アンケートの結果が望ましいものであって識別力が認められたとしても、独占適応性がないとされていた可能性もあり、やはり、登録のためには高いハードルがあると考えられる。
 諸外国においては、単一の色彩のみからなる商標の登録が認められている例もあり、日本においても、単一の色彩のみからなる商標の登録が認められ得ないものではないと考えられる。本判決の事実認定及び判断過程については、今後の実務上、重要であると考えられるため、取り上げた次第である。
 
本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責: 山田 康太(弁護士)