令和4年11月25日号

不正競争ニュース

東京地裁が、クリスチャン・ルブタンが第三者の、靴底の赤い、黒いハイヒールに対して行った不正競争防止法第2条第1項第1号および同第2号に基づく訴えを棄却した事例

 原告は、フランスのファッションデザイナーであるクリスチャン・ルブタンとその会社(以下「原告ら」という。)で、赤いラッカーコーティングされた靴底を有する高級革靴で知られる。被告は、日本の婦人靴ブランドである株式会社エイゾーコレクションであり、赤い靴底の黒いハイヒールを製造・販売している。
 原告らは、被告のハイヒールの靴底が、原告表示(女性用ハイヒールの靴底にパントン社が提供する色見本「PANTONE 18-1663TPG」(以下「原告赤色」という。)を付したもの)に類似しているとして、被告商品(赤色のゴム素材から成る靴底に金色で「EIZO」のロゴマークが付されている商品)につき、不正競争防止法第2条第1項第1号および同第2号に基づき、その製造・販売の差止め及び損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した。裁判所は、これを認めず、原告らの請求を棄却した(東京地裁令和4年3月11日判決(平成31年(ワ)第11108号)。

事実関係

 原告表示は以下のイラストの女性用ハイヒールの靴底にパントン社が提供する色見本「PANTONE 18-1663TPG」を付したものである。なお、PANTONEは国際的に使用されている色見本帳であり、CMYKのような色の重ね合わせで色を指定するのではなく、特定の色を指定するために使用される。
 本裁判中に行われた検証の結果、「ルブタンの女性用ハイヒールは全て、革素材の靴底が原告赤色でラッカー塗装されている」と認定されている。なお、ラッカー塗装とは、有機溶剤にニトロセルロース等を溶解させた塗料を用いて塗装し、溶剤を乾かすことで、光沢を持つ薄い塗膜を形成することができる塗装方法を意味する。

原告表示 原告商品

 訴状に添付された被告商品の写真は以下のとおりである。

 原告らは、被告商品は周知著名な原告表示と類似した商品等表示を使用した商品であり、被告商品の製造販売等が「周知な商品等表示の混同惹起行為」(不競法2条1項1号)及び「著名な商品等表示の冒用行為」(同項2号)に該当すると主張して、被告に対して差止及び損害賠償を求めた。
 本件における争点は、商品等表示該当性、周知著名性、形態の類似性、混同の有無、慣用表示抗弁、先使用抗弁、損害額である。                  

本判決


(1)商品等表示について
 原告らは、原告表示を「①女性用ハイヒールの、靴底部分に付された、原告赤色」と特定した上で、新規性・特異性、使用状況、販売実績、宣伝広告、受賞歴、模倣品に対する対応状況、他国での商標登録、需要者の認識(ツイート・ブログ・アンケート)等を主張し、商品等表示性を獲得している旨主張した。

 被告は、パントン社見本は原告作成にかかる色ではなくありふれた色であって、他ブランドが古くから靴底を赤色とする女性用ハイヒールを製造販売していること等を述べ、新規性・特異性を否定した。被告はさらに、原告商品の特徴はエナメル塗装のようなツルツルした質感とロゴの存在にもあり、このような表示が原告商品を識別選別する上で大きな役割を果たしていることは否定できないことや、原告表示は、女性用ハイヒール・靴底・赤、という3つの特徴だけを取り出したもので、ありふれたものであり、これに独占権を認めれば公正な競争を阻害することを主張した。

 被告は、原告が行った需要者の認識の示すアンケートについては、被告商品のような「手頃な価格帯のブランド品」の需要者ではなく高級ブランド品の需要者又はこれになり得る者に関する原告表示の認識度を測ることを主眼としたものであること、その対象者を高級ブランド品の需要者となり得る者が偏在する東京都、大阪府及び愛知県の居住者であって、かつ、普段都心部でファッションアイテムを購入する者に絞った恣意的なものであること、質問も恣意的なものであること、アンケートを前提としても「靴底が赤いハイヒールを一切見たことがない人」が相当数(20.32%)もいることが、原告表示に特別顕著性も周知性もないことを示していること等を主張した。

 裁判所は、まず、「商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではない」から、商品形態が同号の要件である「商品等表示」に該当するためには、出所表示要件(特別顕著性&周知性)が認められる「特段の事情」が必要であるとし、また、「商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない」との判断基準を示した。

2 不競法2条1項1号該当性について
(1)不競法2条1項1号は、他人の周知な商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)と同一又は類似の商品等表示を使用等することをもって、不正競争に該当する旨規定している。この規定は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するという観点から、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し、事業者間の公正な競争等を確保するものと解される。そして、商品の形態(色彩を含むものをいう。以下同じ。)は、特定の出所を表示する二次的意味を有する場合があるものの、商標等とは異なり、本来的には商品の出所表示機能を有するものではないから、上記規定の趣旨に鑑みると、その形態が商標等と同程度に不競法による保護に値する出所表示機能を発揮するような特段の事情がない限り、商品等表示には該当しないというべきである。そうすると、商品の形態は、①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(以下「特別顕著性」という。)を有しており、かつ、②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知(以下、「周知性」といい、特別顕著性と併せて「出所表示要件」という。)であると認められる特段の事情がない限り、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
 そして、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときであっても、上記商品に関する表示が全体として商品等表示に該当するとして、その一部の商品を販売等する行為まで不正競争に該当するとすれば、出所表示機能を発揮しない商品の形態までをも保護することになるから、上記規定の趣旨に照らし、かえって事業者間の公正な競争を阻害するというべきである。のみならず、不競法2条1項1号により使用等が禁止される商品等表示は、登録商標とは異なり、公報等によって公開されるものではないから、その要件の該当性が不明確なものとなれば、表現、創作活動等の自由を大きく萎縮させるなど、社会経済の健全な発展を損なうおそれがあるというべきである。そうすると、商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。


 裁判所は、女性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がないので、原告表示には、被告商品以外にも、広範かつ多数の商品形態が含まれると認定した。

原告表示は、別紙原告表示目録記載のとおり、原告赤色を靴底部分に付した女性用ハイヒールと特定されるにとどまり、女性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がなく、靴底に付された唯一の色彩である原告赤色も、それ自体特別な色彩であるとはいえないため、被告商品を含め、広範かつ多数の商品形態を含むものである。

 裁判所は、認定事実および第2回口頭弁論期日における検証の結果に基づいて、原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできないから、原告表示が全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないとした。

そして、前記認定事実及び第2回口頭弁論期日における検証の結果(第2回口頭弁論調書及び検証調書各参照)によれば、原告商品の靴底は革製であり、これに赤色のラッカー塗装をしているため、靴底の色は、いわばマニュキュアのような光沢がある赤色(以下「ラッカーレッド」という。)であって、原告商品の形態は、この点において特徴があるのに対し、被告商品の靴底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため、靴底の色は光沢がない赤色であることが認められる。そうすると、原告商品の形態と被告商品の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にするものであるから、少なくとも被告商品の形態は、原告商品が提供する高級ブランド品としての価値に鑑みると、原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできない。そして、靴底の光沢及び質感における上記の顕著な相違に鑑みると、この理は、赤色ゴム底のハイヒール一般についても異なるところはないというべきである。
したがって、原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品等表示に該当しないことからすると、原告表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないものと認めるのが相当である。

 商品等表示を否定するに留まらず、裁判所は、補足的に、特別顕著性や強力な宣伝広告の有無をも判断している。裁判所は、特別顕著性につき、靴底に赤色を付すことは通常の創作能力の発揮において行い得ること、原告商品が日本で販売される前から原告赤色と似た赤色が靴底の色彩として使用されており、現在それが一般的なデザインとなっていること等を指摘して特別顕著性を否定した。強力な宣伝広告については、原告会社が自ら広告宣伝費を払ってテレビ等で広告宣伝を行っていないから、極めて強力な宣伝広告が行われているとはいえないとした。

のみならず、前記認定事実によれば、そもそも靴という商品において使用される赤色は、伝統的にも、商品の美感等の観点から採用される典型的な色彩の一つであり、靴底に赤色を付すことも通常の創作能力の発揮において行い得るものであって、このことはハイヒールの靴底であっても異なるところはない。そして、原告赤色と似た赤色は、ファッション関係においては国内外を問わず古くから採用されている色であり、現に、前記認定事実によれば、女性用ハイヒールにおいても、原告商品が日本で販売される前から靴底の色彩として継続して使用され、現在、一般的なデザインとなっているものといえる。そうすると、原告表示は、それ自体、特別顕著性を有するものとはいえない。また、前記認定事実によれば、日本における原告商品の販売期間は、約20年にとどまり、それほど長期間にわたり販売したものとはいえず、原告会社は、いわゆるサンプルトラフィッキング(雑誌編集者、スタイリスト、著名人等からの要望又は依頼に応じて、これらの者が雑誌の記事、メディアでの撮影等で使用するため原告商品を貸し出すという広告宣伝方法をいう。)を行うにとどまり、自ら広告宣伝費用を払ってテレビ、雑誌、ネット等による広告宣伝を行っていない事情等を踏まえても、極めて強力な宣伝広告が行われているとまではいえず、原告表示は、周知性の要件を充足しないというべきである。したがって、原告表示は、そもそも出所表示要件を充足するものとはいえず、不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当するものとはいえない。


(2)混同に関する判断
 裁判所は、これらに飽き足らず、出所混同の有無についても、靴底の光沢及び質感における顕著な相違、原告商品と被告商品の価格帯の違い(原告商品は最低8万円超、被告商品は税抜1万6000円~1万7000円)、靴底等のデザインの違いにより需要者が両商品の出所を十分に識別し得ること、ロゴによっても出所の違いを十分に確認できること、試し履きをして購入するのが通常であること等を認定し、出所混同が生じないとした。

また、前記認定事実によれば、原告商品は、最低でも8万円を超える高価格帯のハイヒールであって、靴底のラッカーレッド及びその曲線的な形状に加え、靴の形状、ヒールの高さその他の形態上の顕著なデザイン性を有する商品であるのに対し、被告商品は、手頃な価格帯の赤色ゴム底のハイヒールであることからすると、ハイヒールの需要者は、両商品の出所の違いをそれ自体で十分に識別し得るものと認めるのが相当である。さらに、いわゆる高級ブランドである原告商品のような靴を購入しようとする需要者は、その価格帯を踏まえても、商品の形態自体ではなく、商標等によってもその商品の出所を確認するのが通常であって、原告商品、被告商品とも、中敷や靴底にブランド名のロゴが付されているのであるから、需要者は当該ロゴにより出所の違いを十分に確認することができる。しかも、原告商品のような高級ブランド品を購入しようとする需要者は、自らの好みに合った商品を厳選して購入しているといえるから、旧知の靴であれば格別、現物の印象や履き心地などを確認した上で購入するのが通常であるといえ、上記の事情を踏まえても、このような場合に誤認混同が生じないことは明らかである。
このような取引の実情に加え、原告商品と被告商品の各形態における靴底の光沢及び質感における顕著な相違に鑑みると、原告商品と被告商品とは、需要者において出所の混同を生じさせるものと認めることはできない。
そうすると、被告商品の販売は、不競法2条1項1号にいう不正競争に明らかに該当しないものと認められる。

 以上のとおり、裁判所は、「不競法2条1項1号にいう不正競争に明らかに該当しない」と判断した。

 なお、原告商品と被告商品の対比観察について、原告が両者の相違は一見してはわからない旨を主張していたが、裁判所は以下のとおり期日に行われた検証の結果から大きく印象が異なる旨を認定している。

原告らは、原告商品と被告商品とを同時に並べて対比的観察を行っても、原告赤色と被告商品の靴底に付せられた赤色の色合いは何ら違わず同一であり、光沢の程度や質感の相違等に僅かな差異が存在するとしても、これらは一見して分からない程度の差異にすぎない旨主張する。しかしながら、第2回口頭弁論期日における検証の結果によれば、原告商品と被告商品の両靴底の光沢及び質感の差異は一見して分からない程度のものではなく、ラッカーレッドで革製の原告商品の形態と赤色ゴム底の被告商品の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに大きく印象を異にすることは、上記において説示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、写真ではなく現物の印象の差異につき、裁判所の上記認定とは異なる前提に立つものである。
したがって、原告らの主張は、採用することができない。

 そのほか、インターネットで購入する場合には質感の相違が確認できない旨の原告の主張に対しては、(経験則から)高級ブランド品は現物の印象や履き心地などを確認した上で購入するのが通常であるとして排斥している。

原告らは、ウェブサイトを紙面に印刷した場合や、パソコンのモニター上で確認した場合には、原告商品と被告商品の材質の差異や光沢の有無等を確認することができない旨主張する。しかしながら、前記において説示したとおり、高級ブランド品を購入しようとする需要者は、旧知の靴であれば格別、自らの好みに合った商品を厳選して購入するために、現物の印象や履き心地などを確認した上で購入するのが通常であるといえるから、原告らの主張は、取引の実情につき、上記とは異なる前提に立つものである。
したがって、原告らの主張は、採用することができない。

 原告がアンケート結果に基づいて商品等表示が認められる旨主張していた点に関しては、対象者が適切ではない、アンケートに記載の靴がピンヒールで比較的デザイン性のあるものであり被告商品の形態と大きく異なる、光沢の有無等を一切捨象したものである等として、適切なものであるとは認めなかった。

ウ 本件アンケートは、令和2年10月9日から同月11日までの間、ファッションアイテム又はグッズを購入する20歳から50歳までの女性用ハイヒールを履く習慣のある女性を対象として、東京都、大阪府及び愛知県の特定のショッピングエリアで実施されたものである。そして、上記の条件で回答者(東京都1055人、大阪府1041人及び愛 知県1053人)を抽出し、インターネットを用いてアンケート調査を実施した。
エ 本件アンケートの結果によれば、本願商標を見てルブタンの出所を示すものと認識した人の割合は、靴底が赤いハイヒールを一切見たことがない人を対象に含めた場合には、64.77%~67.76%であり、これらの人を対象に含めない場合には、51. 60%~53.99%である。
他方、靴底が赤色の女性用ハイヒールを販売しているファッションブランドを知らなかった者及び分からなかった者の割合は、全サンプル30.13%(うち、靴底が赤色の女性用ハイヒールを見たことがない者は67.44%)であり(Q5「靴底が赤いハイヒール靴を販売しているファッションブランドがあることを知っていましたか。」、Q5-1「あ なたは、この画像のように靴底部分が赤いハイヒール靴を見たことがありますか。」)、選択式でルブタン以外のブランド名を選択した者の割合は、回答者数の34.78%であった (Q7「このように靴底部分が赤いハイヒールを見て、どちらのブランドが思い浮かびますか。」)。


原告らは、本件アンケート結果によれば、原告表示には商品等表示が認められる旨主張する。しかしながら、本件アンケートは、女性用ハイヒールの市場につき、①高級ブランド品、②手頃な価格帯のブランド品、③安価な無名品の3つのセグメントに分けられるとした上、高級ブランド品の需要者を主として対象とするものであるから、手頃な価格帯のブランド品のセグメントに属するといえる被告商品を含めたものとしては、必ずしも適切なものといえない。しかも、本件アンケートは、本願商標(商願2015-29921)の認識度調査であって、その形態として示された本願商標は、いわゆるピンヒールで比較的デザイン性のあるものであり、被告商品の形態とは、大きく異なるものである。のみならず、本願商標における靴底の赤色についても、光沢の有無等を一切捨象したものであるから、本件アンケート結果は、被告商品の現物を確認させた上で認識度を調査するものであれば格別、手頃な価格帯の赤色ゴム底のハイヒールが原告らの出所を示すことを明らかにするものではなく、上記に説示したところに照らすと、本件に適切ではない。そうすると、本件アンケートの結果は、上記認定を左右するに至らない。
したがって、原告らの主張は、採用することができない。

 最後に、裁判所は、「手頃な価格帯の赤色ゴム底のハイヒールについてまで原告らの商品等表示に該当するとすれば、かえって公正な競争を阻害し、社会経済の健全な発展を損なう」ことを述べている。

その他に、原告らの主張を改めて検討しても、ラッカーレッドで革製の靴底の原告商品と赤色ゴム底の被告商品とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にするものであって、原告らの主張は、実質的には、写真ではなく現物の印象につき、前記認定とは異なる前提に立つものに帰するといえる。そうすると、原告らの主張は、上記判断を左右するに至らない。そもそも原告表示は、広範かつ多数の商品形態を含み得るものであって、上記の形態の相違にかかわらず、手頃な価格帯の赤色ゴム底のハイヒールについてまで原告らの商品等表示に該当するとすれば、かえって公正な競争を阻害し、社会経済の健全な発展を損なうおそれがあることは、上記において説示したとおりである。
したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
                
(3)著名表示該当性
 裁判所は、原告表示が不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない以上、同項2号にいう著名な商品等表示にも該当しないと判断した。



検討

(1)基準について
 一般に、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を持ち不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには、特別顕著性と周知性が要求される。本判決も、「商品等表示」に該当するためには特別顕著性と周知性が必要であるとしている点においては、従来の裁判例と同様である。

知財高判平成24年12月26日〔ペアルーペ事件判決〕

商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。

知財高判平成27年4月14日〔トリップトラップ事件判決〕
商品の形態が①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、②特定の事業者による長期間に及ぶ継続的かつ独占的な使用,強力な宣伝広告等により,需要者において,当該特定の事業者の出所を表示するものとして周知されるに至れば(周知性),不競法2条1項1号の「商品等の表示」に該当するものといえる。


 本判決は、上記判示部分に続いて「商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない」とも判示している。当該判示は、原告表示が広すぎる(上位概念化されている)場合を念頭に、広すぎる原告表示の中に商品等表示に該当しないものが含まれている場合には原告表示全体を不競法2条1項1号上の商品等表示に該当しないとの判断基準を示したものである。

(2)事実認定について
 訴状自体に添付された原告表示と被告表示との比較ではその相違があまり明らかではないものの、「ラッカーレッドで革製の靴底の原告商品と赤色ゴム底の被告商品とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にする」といった裁判所の認定には、検証の結果が相当程度影響していると思われる。
 また、強力な宣伝広告について、裁判所は、原告会社が自ら広告宣伝費を払ってテレビ等で広告宣伝を行っていないから、極めて強力な宣伝広告が行われているとはいえない旨判断しているが、この点については昨今の広告宣伝事情を考慮していない等の異論もある。
 その他、アンケートについては「光沢の有無等を一切捨象したものであるから」という理由で切られているが、そうすると現物の靴を使う必要があったということであろうか。関連して、原告表示と同様に女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色で構成される商標についての商標出願(商願2015-29921)について、判決文によれば「本件アンケートの結果によれば、本願商標を見てルブタンの出所を示すものと認識した人の割合は、靴底が赤いハイヒールを一切見たことがない人を対象に含めた場合には、64.77%~67.76%であり、これらの人を対象に含めない場合には、51. 60%~53.99%である」となっており、靴底が赤いハイヒールを一切見たことがない人を対象に含めた場合には「靴底が赤いハイヒール」=「ルブタン」と認識する割合が高い、という点は興味深い。

(3)光沢について
 本判決において裁判所は「ラッカーレッドで革製の靴底」の原告商品と認定している。原告表示に関し、この「ラッカーレッド」(光沢)の点を限定した場合には商品等表示性については認めてもらえた可能性もあるが、その場合であっても「ラッカーレッドで革製の靴底の原告商品と赤色ゴム底の被告商品とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にする」との事実認定の下では結局類似しないと判断されただろうとは思われる。
 ルブタンの赤い靴底の商標出願(商願2015-29921)については識別力がないとされ、日本ではまだ登録に至っていない。仮に「ラッカーレッド」(光沢)の箇所を米国商標のように特定すれば識別力があるとして登録に至るのであろうか。
 この点、不正競争防止法第2条第4項は、「この法律において『商品の形態』とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう」として、「色彩」「光沢」「質感」を区別しているから、商標法でも「色彩」には「光沢」「質感」が含まれないということになるのであろうか。なお商標審査便覧上は、「金色、銀色等のメタリックカラー及びパールカラー並びにこれらに準ずる色彩」は認められているが、ラッカー塗装されたような光沢のある赤が「これらに準ずる色彩」たり得るのだろうか。

(4)ルブタンに関するその他の訴訟
 ルブタンの赤い靴底については、日本以外でも裁判例がある。たとえば、アメリカでは、ルブタンが登録していたレッドソール商標をイブサンローランが侵害しているかが争点になったケースとして、Louboutin v. Yves St.Laurent (696 F.3d 206 (2d Cir. 2012)) がある。このケースでは、イブサンローランが販売していた靴は、ソールだけではなく、靴全体が赤であった。
 第一審のニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は、ファッション業界とその他の業界とを区別したうえで、ファッション業界では単色は商標としては一切保護されないとしてルブタンの請求を排斥した。
 ルブタンは、以前の連邦最高裁判決が二次的意味を獲得したグリーンゴールドの単色に商標としての保護を認めていることから、第一審判決は当該判例に違反すること等を主張して控訴した。
 控訴審である第二巡回区連邦控訴裁判所は、色が、他の重要な機能を果たすことなく、企業の商品を区別し、その出所を特定するシンボルとして機能する場合、商標権を取得できるとした。
 靴の甲部分または残りの部分との色彩の相違があること(コントラストの存在)が権利であるとの限定が加えられつつ、ルブタンの色彩商標には使用による二次的意味が認められるとした。これにより、商標権は維持されたものの、イブサンローランの赤色靴製品は全体が赤色(モノクローム)なので、権利の限定にかかって差止請求は認められなかった。(反訴請求があったので判決としては差戻しされた。)

ルブタンの赤い靴底に商品等表示性を認めなかったという点において話題性があるため紹介した次第である。

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文責: 鈴木 佑一郎(弁護士・弁理士)