平成29年3月6日号

不正競争ニュース

知財高裁、展示会へ出展された段階の商品であっても不競法2条1項3号の「他人の商品」として保護の対象となるとした上で、3年の保護期間の始期である「日本国内において最初に販売された日」は展示会出展日であると判断

加湿器の開発者である原告らが、被告が輸入、販売した加湿器が原告らの加湿器の形態を模倣したものであり、その輸入、販売等は不正競争(形態模倣)および著作権侵害に当たるとして、被告商品の輸入、販売等の差止め・廃棄並びに損害賠償を求めた事案において、知財高裁は、原告らの加湿器は展示会へ出展された段階では不正競争防止法第2条1項3号の「他人の商品」には当たらないとした地裁の判断を覆し、原告らの同法違反による損害賠償請求を認めた。他方で、知財高裁は、同法第19条1項5号イの保護期間の始期は展示会出展日であると認定し、それから3年が既に経過しているとして、差止請求を棄却した(知財高裁平成28年11月30日判決(平成28(ネ)10018号))。

事実関係

原告ら(個人)は、総合家電メーカーのプロダクトデザイナーである傍らデザインユニットを結成し、フリーのデザイナーとしても活動していた。原告らは、試験管様のスティック形状で、下部から水を取り入れ上部から蒸気を発する加湿器1~3(下図参照)を開発した。(実際に市販されたのは加湿器3のみである。)

加湿器1~3
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/320/086320_hanrei.pdfより引用

被告(株式会社セラヴィ)は、インテリア・デザイン家電、生活雑貨等の企画、生産および輸入卸を行う会社であり、試験管様のスティック形状で、下部から水を取り入れ上部から蒸気を発する加湿器(下図参照)を中国から輸入し販売した。)

被告商品
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/320/086320_hanrei.pdfより引用

控訴審で認定された開発から販売に至るまでの事実関係を時系列にまとめると、以下のとおりとなる。

平成23年10月末:  遅くともこの日までに、原告らが加湿器1を開発
平成23年11月1日~6日:  原告らが国際展示会に加湿器1を出展
平成24年6月5日:  遅くともこの日までに、原告らが加湿器2を開発
平成24年6月6日~8日:  原告らが国際見本市に加湿器2を出展
平成25年9~11月頃:  被告が被告商品を中国から輸入
平成27年1月4日:  遅くともこの日までに、原告らが加湿器3を開発
平成27年1月5日頃:  原告らのウェブサイトで加湿器3の販売申出を開始

原告らは、被告商品が原告ら開発の加湿器1または2の形態を模倣するものであるとして、また加湿器1および2は美術の著作物に当たるとして、その輸入・販売等の差止めおよび廃棄を求め、不正競争防止法違反または著作権侵害の不法行為に基づき損害賠償を求めた。

原判決は、不競法第2条1項3号の「他人の商品」とは、「市場における流通の対象となる物(現に流通し、又は少なくとも流通の準備段階にある物)をいう」とし、加湿器1および2は、上記展示会当時の構成では一般家庭等において容易に使用し得ない開発途中の試作品というべきものとして、市場における流通の対象となる「他人の商品」には当たらないと判断した。また、加湿器1および2は応用美術であり美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えていないと判断し、原告らのいずれの請求も棄却した。

原告らは、原判決を不服として、知財高裁に控訴した。

なお、原審では、被告から被告商品を購入して販売していた株式会社スタイリングライフ・ホールディングスも被告として挙げられており、原判決は原告らの同社に対する請求も棄却したが、控訴審において同社は原告らと和解したため、株式会社セラヴィのみが被控訴人となった。

本判決

本判決は、被告商品は原告らの加湿器1および加湿器2のいずれか一方または双方を模倣したものであるとし、被告の過失を認定して原告らの損害賠償請求を一部認めた(認容金額:原告2名の合計で189万円)。
その一方で、形態模倣についての「最初に発売された日から起算して3年」の保護期間(不正競争防止法第19条1項5号イ)は、原告らが加湿器1を展示会に出展した平成23年11月1日を基準とし、平成26年11月1日の経過により終了したとして、被告商品の輸入、販売等の差止および廃棄請求については棄却した。

争点となった「他人の商品」該当性および保護期間終了の成否については、本判決は以下のように判断した。

(1)「他人の商品」該当性

本判決は、「最初に販売された日」とは「他人の商品」の保護期間の終期を定めるための起算日にすぎず、「他人の商品」について、当該物品が現に販売されていることは要件として求められていない、と述べた。

さらに、商品開発者が商品化に当たって資金または労力を投下した成果を保護するとの形態模倣禁止の趣旨に鑑みて、「他人の商品」とは、資金または労力を投下して取引の対象となし得ること、すなわち、「商品化」を完了した物品であると解するのが相当であるとした。この「商品化」の概念については、「商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある」と述べた。

その上で、原告らの加湿器1および2のような展示会に出展された商品は、特段の事情のない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになったものと認められるとして、「他人の商品」該当性を認めた。なお、販売に当たり、量産化等の事情によって形態への多少の改変が必要となるのは通常のことであり、「他人の商品」該当性の判断を左右しないとも述べた。

(2)保護期間の始期

本判決は、「最初に販売された日から起算して3年」の保護期間は、先行開発者が投下資本の回収を終了し通常期待しうる利益を上げられる期間として定められたものであり、この保護期間の終期が定められた趣旨に鑑みると、保護期間の始期は「開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時」であると判示した。

また、本判決は、加湿器2は加湿器1の形態に若干の変更が加えられていても、両加湿器の形状は実質的に同一であるから、保護期間の算定においては加湿器1が基準となるとして、加湿器1が展示会に出展された平成23年11月1日を始期とし、加湿器1および2の形態の保護期間は、口頭弁論終結日前の平成26年11月1日に終了したと認定した。

この点、原告は、「最初に販売された日」とは商品として市場に出された日をいい、本件における保護期間の始期は加湿器3 の販売が開始された平成27年1月5日であると主張したが、本判決は、原告主張のように解した場合には、商品の販売が可能になったものの実際の販売開始が遅れた場合に3年を超える保護期間を享受できることになってしまい、これは、知的創作に関する知的財産法との均衡、先行開発者と後行開発者の利害対立などの調整として、保護期間を3年に限定した形態模倣の趣旨に合致しないとして、これを排斥した。

その他、著作権侵害の主張に対しては、加湿器1および2は応用美術であるところ、応用美術に著作物性が認められるには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当でないとの規範を示したものの、加湿器1および2については、著作権法における個性の発揮は認められないとして、著作物性を否定した。

検討

不競法第19条1項5号イの規定は、保護期間の終期を定めるものであり、その始期は「日本国内において最初に販売された日」とされているところ、未発売の商品が同法第2条1項3号の「他人の商品」に含まれるか否かについては、特に規定されていない。しかしながら、本判決で触れられている形態模倣禁止の趣旨(商品開発者が商品化に当たって資金または労力を投下した成果を保護すること)は、未発売の商品であっても妥当するに至っている場合が想定され、むしろそのような場合に同法による保護を受けられないとすれば、商品開発の意欲が削がれることになる。本判決は、未発売の商品の一部にも保護を及ぼし、形態模倣禁止の趣旨を全うさせようとするものである。

さらに、保護期間の終期の起算点は、条文の文言どおりに解せば販売開始日ということになろうが、本判決は、同条の趣旨に鑑みて、保護期間の始期は「開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時」との規範を示した点に意義がある。

なお、原告らの加湿器の著作物性について、本判決はTRIPP TRAPP事件控訴審判決(知財高判平成27年4月14日判決)で応用美術の著作物性について従来とは異なる判断基準を示した知財高裁第2部によるものであるが、本件では、結論として著作物性は否定されている。

本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)
(第一審についてはこちら(外部ウェブサイト))

文責: 本阿弥 友子 (弁護士)