平成28年1月22日号

海外著作権ニュース

米国(著作権):連邦控訴裁判所、グーグルによる書籍のスキャン事業はフェア・ユースの範囲内であると判断

米国連邦第2巡回区控訴裁判所は、2015年(平成27年)10月16日、グーグルによる、書籍をスキャンして内容の検索を可能にするサービスを提供する事業「グーグルブックス」について、かかるスキャン事業は米国著作権が規定するフェア・ユースの範囲内であり、著作権侵害とならないと判断した(Authors Guild v. Google, Inc., 13-4829-cv)。

「グーグルブックス」とは、キーワードを入れて検索することで、関連する書籍を探すことができる検索エンジンである。グーグルは、図書館と提携関係を結び、図書館が有する蔵書の全文をデジタル・スキャンして、データベース上にそのコピーを登録することで、「グーグルブックス」の利用者が、書籍のタイトル、著者に加え、書籍内の全文を対象に検索を行うことを可能にした。
また、検索結果の表示においては、検索タームの周辺にある一部を切り取った抜粋(スニペット)を表示する機能も有していた。
しかしながら、こうした書籍の全文をスキャンして検索可能にする行為、およびスニペット表示機能は、著作権者の許諾を得ずに行われていた。そのため、米国作家協会らが、グーグルを相手取り、著作権侵害を主張して提訴した。

本件訴訟の主要な争点は、かかるグーグルによる「グーグルブックス」検索のための書籍の利用が、米国著作権法の規定するフェア・ユースに該当し、著作権侵害には当たらないと言えるか否かという点である。

米国におけるフェア・ユースは、米国憲法修正第1条における理念である「表現の自由」と、著作物について排他的権利を認めた著作権法との整合性を保つものとして、当初判例上で確立し、米国著作権法107条において成文化されたものである。
フェア・ユースの判断に当たっては、以下の4点を総合的に考慮して、ケースバイケースでの分析が必要となる。
(1) 利用の目的と性格(営利を目的とした利用であるか、非営利の教育目的であるか等)
(2) (著作権により保護された)著作物の性質
(3) 著作物全体に対して利用に供される部分の量と重要性
(4) 著作物の潜在的市場や価値に対して及ぼす影響

フェア・ユースに関しては、パロディ作品に対しフェア・ユースの上記4点の基準を適用し、その成立を認めた、1994年のキャンベル事件における連邦最高裁判決(Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc.)が有名である。
これ以前の判例においては、フェア・ユースの判断において、営利的性格を持つ著作物の利用であるか否かを重要な判断要素として捉える傾向にあった。しかしながら、キャンベル事件において連邦最高裁は、営利的利用であるからといって必ずしもフェア・ユースが認められないとは言えないと指摘すると共に、著作物を利用して生みだされた作品がtransformative(変容的)であるか否かを重要な判断基準とした。同判決は、パロディ作品の場合には、原作品に対する論評のような性格を持ち、元の作品に新たな意味を加えるものであるから、その需要者も市場も異なるため、フェア・ユースとして認められると判断した。キャンベル事件以後、「変容的」であるか否かの判断が、フェア・ユースの認定に際し、最終判断を左右しているようにも見受けられる。

本件において、米国連邦第2巡回区控訴裁判所は、(1)の基準(利用の目的と性格)については、「グーグルブックス」の目的は、検索機能に関してはユーザーが書籍についての重要な情報を得られるようにすること、スニペット表示機能に関しては興味を引く書籍であるかの判断に足るだけの情報を与えることであるとし、ここでは、著作権により保護された著作物の代替となる程度の提供は行われておらず、「変容された利用目的がある」とした。
(3)の基準(著作物全体に対して利用に供される部分の量と重要性)については、裁判所は、グーグルは書籍の全文をコピーしているものの、その利用の目的は「変容的」であるため、当該「変容された利用目的」に対する著作物の使用量としては相当程度であり、目的の達成に必要程度の利用であると判断した。加えて、裁判所は、スニペット表示機能に関して、実際にスニペット表示として提供する際に使用される量に着目し、部分的な散在した情報しか与えないスニペットは、書籍の代替とはならないとした。
(4)の基準(著作物の潜在的市場や価値に対して及ぼす影響)について、裁判所は、利用目的が「変容的」であればあるほど、著作物の市場に与える影響は小さくなるとした上で、本件の場合には、「グーグルブックス」の検索機能における「変容的」性質が強くみられることから、市場に与える影響は大きくない(検索行為は、書籍の購入や購読行為とは異なる)とした。また、スニペット表示に関しても、裁判所は、散在した情報をつなぎ合わせても、書籍の内容のうち16%を得られるに留まる(それも、一連の内容の16%ではなく、分裂した16%の情報に過ぎない)ことからして、グーグルの行為は、著作権の価値を下げ、本来得られるはずの収益を下げるものとは言えないと判断した。

結論として、裁判所は、「グーグルブックス」はフェア・ユースであり、著作権侵害とはならないと判断した。

グーグルとフェア・ユースに関しては、本件以外にも、検索エンジン上で表示するサムネイル画像の使用がフェア・ユースであるか否かが問題となった事件がある(Perfect 10, Inc. v. Amazon.com, Inc.、2007年5月16日判決)。同事件において、第9巡回区控訴裁判所は、元となる著作物が、娯楽や美的表現を目的として提供されるものであるのに対し、検索エンジンにおける使用を通じて、サムネイル画像には、情報源として参考資料を提供するものへと異なる意味合いが与えられているとして、「変容的」な利用目的を認め、フェア・ユースに当たると判断した。

本判決は、transformative(変容的)な利用であるか否かを重視してフェア・ユースの成否を判断するという点においては、前述したキャンベル事件判決の判断枠組みを踏襲するものであるが、キャンベル事件がパロディに関する事件であったのに対し、本件の「グーグルブックス」は、著作物の利用方法の点においてパロディとは大きく異なるものであり、同じ「変容的」といっても、その意味するところは大きく異なるようにも思われる。その意味では、本判決は「変容的」の意味内容をリベラルに解釈し、フェア・ユースが成立する余地を広く認めた判決である、と評価することもできる。
もっとも、「変容的」であるかの判断基準を緩やかにし過ぎると、元となる著作物とほぼ同じ目的を体現している贋作のような場合にしか著作権侵害が認められず、大方フェア・ユースに該当すると判断されてしまう恐れも考えられるため、フェア・ユースの成否の判断に当たっては、慎重な分析が必要であると思われる。

判決全文(英語)はこちら(外部ウェブサイト)

(文責: 山崎理佳(カリフォルニア州弁護士))