令和6年8月19日号
商標ニュース
知財高裁が、「O!OiMAIN」の文字からなる商標と「〇|〇|」の記号で構成される商標を類似と判断した事例
「O!OiMAIN」の文字からなる商標登録に対する無効審判請求について、特許庁が請求不成立と判断した事案において、知財高裁は、商標法4条1項11号に該当し登録要件を満たさないという判断のもと、特許庁の審決を取り消した(令和6年3月27日知財高判(令和5年(行ケ)第10068号)
事案の概要
被告(ジョン・イェスル、個人)の「O!OiMAIN」の文字からなる商標の出願について登録査定がなされ、これに対する原告(株式会社丸井グループ)による無効審判請求を不成立とする判断をした特許庁の審決の取消を求めた事案である。
特許庁は、引用商標の周知性を認めつつも、本件商標が一連一体の商標であることを前提として、両商標は非類似であると判断し、商標法4条1項11号及び同15号の該当性を否定した。そのため、本判決でも、商標法4条1項11号、同15号の該当性が争点とされた。
本件商標(商願第6371695号)
区分:9類、18類、25類
引用商標3=本件引用商標(第4640297号)
区分:3類、5類、7類~12類、14類~16類、18類、20類~22類、24類~42類
なお、知財高判令和5年12月4日は、本判決に先立ち「5252byO!Oi」からなる商標登録(第6371693号)を、本件引用商標とが類似し、商標法4条1項11号に該当すると判断し無効とした。
本判決
本判決は、まず、本件引用商標が、取引者、需要者の間に広く認識されていたことを認定し、続けて、本件商標と本件引用商標の類否について以下のとおり「O!Oi」部分が、本件商標の要部であると認定した。
- 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解すべきである。
- 証拠及び弁論の全趣旨によると、被告が代表者を務めるファインドフォーム社は、その商品(被服、帽子及びかばん類)に「OIOI」、「OiOi」、「O!Oi」等の標章を付してこれらの商品を小売販売し、また、そのウェブサイトに「O!OiCOLLECTION」等の標章を付してこれらの商品の宣伝・広告をしているものと認められる。
- 「O!Oi」が辞書等に搭載された語であり、又は一般的に用いられている語であると認めるに足りる証拠はないから、O!Oi部分は、特定の意味合いを有しない一種の造語であり、それゆえに、平易な英単語のみからなるMAIN部分との対比において視覚的に目立つものである。そして、前記のとおり、被告が代表者を務めるファインドフォーム社は、その製品に「OIOI」、「OiOi」、「O!Oi」等の標章を付して販売するなどしている。このような取引の実情(なお、「OIOI」又は「OiOi」の標章と「O!Oi」の標章とが変わりのないものと理解し得ることについては、後記…のとおりである。)を併せ考慮すると、O!Oi部分は、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての印象を強く与えるものであると認めるのが相当である。
続いて、本件商標の要部と、本件引用商標の類否については、以下のように判示し、結論として類似であると判断した。
- 証拠及び弁論の全趣旨によると、企業名等を表すロゴや文字列の中で、「I」の文字又は「i」の文字に代えて「!」の符号又は縦若しくは斜めの棒状の図形の下部に「●」、「■」、「★」等の図形記号を用いる例が多数あるものと認められ、「!」の符号も、アルファベットの文字列の中に配されたときは、「I」の文字又は「i」の文字と変わりのない文字であると理解され得るものである。加えて、「〇」の記号も、「O」の文字を図案化したものとして、両者は実質的には変わりのないものとの印象を与え得ること、その取引者、需要者からみれば、本件商標のO!Oi部分と引用商標3の字体の相違(色彩の相違を含む。)が類否判断に当たって大きな意味合いを有するものとは認め難いことを併せ考慮すると、取引者、需要者は、本件商標のO!Oi部分を見た場合、これが「〇|〇|」と実質的には変わりのないものを指すと理解し得るということができ、厳密には前記のような相違があるとしても、隔離観察を前提とすると、両者は、外観上極めて相紛らわしいものであると認めるのが相当である。被告は、「F!T」等の文字列の場合と異なり、「O!Oi」の文字列については、「!」の符号を「I」の文字等に置換して認識すべきことが強く示唆されていないなどと主張するが、迅速を貴ぶ商取引において、アルファベットの文字列の中に配された「!」の符号は、その形状(縦棒上の図形とその下部に小さく点様の図形を配してなるもの)に照らし、当該文字列からの示唆の大小にかかわらず、「I」の文字等と変わりのないものと理解され得るというべきである。被告の主張を採用することはできない。
- 本件商標のO!Oi部分は、途中に感嘆符を含む一種の造語であるが、証拠及び弁論の全趣旨によると、O!Oi部分からは、「オーアイオーアイ」又は「オアイオアイ」の称呼が生じるものと一応認められる。
- 引用商標3は、原告標章と外観上同一視し得る形状のものであるところ、前記1のとおり、原告標章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであることからすると、引用商標3からは、「マルイ」の称呼が生ずるものと認めるのが相当である(この点は、当事者間に争いがない。)。そして、本件商標のO!Oi部分と引用商標3とが、前記のとおり、外観上極めて相紛らわしいことを踏まえると、O!Oi部分についても「マルイ」の称呼が生じ得るというべきであり、観念についても本件引用商標と同様の観念(丸井又はマルイのロゴマークなど)が生じ得る。
- 本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、外観、称呼及び観念の点で極めて相紛らわしいものであり、加えて、前記のとおり、引用商標3と外観上同一視し得る形状を有する原告標章が原告らのロゴマークとして取引者、需要者の間に広く認識されていることなどを併せ考慮すると、本件商標のO!Oi部分と引用商標3については、両者が同一の商品又は役務について使用された場合、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるものと認めるのが相当である。したがって、本件商標のO!Oi部分と引用商標3は、取引の実情に基づき、外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、互いに類似するものと認められる。
検討
まず、要部観察については、本件商標が全体で一連一体であるという前提で判断をした特許庁とは異なり、本判決は、「O!Oi」部分が本件商標の要部(以下「本件要部」という)であると認定した。この点、前掲知財高判令和5年12月4日では「5252byO!Oi」の文字からなる商標中、「O!Oi」を要部として認定しているが、この事例では、出所を示す「by」の文字と、数字の組み合わせであり、比較的「O!Oi」を要部として認定しやすい事案であったように思われる。
他方で、本件商標は、全体がまとまりよく表されており、一連一体の商標であるという判断もあり得たようには思われる。また、本件要部には、感嘆符が含まれており、「O!」「OiMAIN」のように認識されることも考えられたことから、当然に本件要部が抽出されるべきという事案ではないと考えられる。したがって、本件商標から本件要部を抽出するのは難しいようにも思われるが、本判決は、被告が、被告製品に本件要部のみを付していたという事実を取引の実情として考慮しており、このような事実関係が要部の抽出にあたって大きな影響を与えているようにも見受けられる。
次に、商標の類否について、本判決は、本件要部の各文字を見ると、本件要部のうち、O(アルファベット)は〇(図形)に、「!」を「I」または「i」に置き換え、「i」を「|」に、図案化しても、与える印象の相違は大きくないなどとして、類似の判断に影響を与えないとしている。
この点、実際の商標が使用される場面を想定すると、文字の大きさなどによっては、酷似しているように見える場面も想定でき、類似という判断もありうるようには思われる。
他方で、本件要部は!」と「i」を対照的に配置することで、ロゴのようなデザイン性のあるような構成となっており、本件引用商標と比べると、一見したときに需要者に与える印象は大きく異なるという見方もできる。
このような見方を前提とすると、本判決においては、商標非類似という判断もある程度妥当であると考えられるため、商標法4条1項11号ではなく、15号に該当するという判断もありえたようにも思われる。
本件要部の称呼や観念について、通常の読み方や観察からすれば、本件要部から「マルイ」という称呼や観念が生じるとは考えられないように思われるが、本判決は本件引用商標の周知著名性も考慮してか、本件要部の外観からは、マルイの称呼や観念が生じ得ると判示している。
したがって、ロゴや図形等からなる商標の使用や出願を検討する場合には、当該商標の外観を注意深く観察し、引用商標となりうる登録商標の周知著名性も考慮した検討をしておくのがより安全であることが示唆される。
本判決は事例判断ではあるものの、特に外観の類否が問題になる場合や、引用商標に周知著名性が認められる場合の商標の類否について、参考となりうるものであるため取り上げた次第である。
本判決の全文は
こちら(外部ウェブサイト)
文責: 山田 康太(弁護士)