令和5年10月12日号

特許ニュース

知財高裁が、システムの構成要素の一部であるサーバが海外に存在する場合に、当該システムの生産行為は日本国内で行われており、属地主義との関係において日本の特許権の効力が及ぶと判断した事例(知財高裁大合議判決)

 サーバおよび端末を構成要素とするシステムを被告が生産する行為が、原告の日本の特許権を侵害するとして、原告が被告に対して差止めおよび損害賠償を求めた事件において、知財高裁は、システムの構成要素の一部であるサーバが海外に存在するとしても、当該システムを新たに作り出す行為は日本国内で行われたものであり、特許法第2条第3項第1号の「生産」に該当するとして、原告の請求を一部認容した(知財高裁令和5年5月26日大合議判決(令和4年(ネ)第10046号))。

事案の概要

 株式会社ドワンゴ(原告・控訴人)は、発明の名称を「コメント配信システム」とする特許第6526304号(本件特許)の特許権者であった。
 本件特許の請求項1に記載の発明(本件発明1)は、「サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システム」であることを構成要件とする発明であった。
 また、本件特許の請求項2に記載の発明(本件発明2)は、「動画配信サーバ及びコメント配信サーバと、これらとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システム」であることを構成要件とする発明であった。
 
 他方、FC2, INC.(被告・被控訴人)(被告FC2)は、米国法人であり、インターネット上のコメント付き動画配信サービス「FC2動画」(被告サービス1)、「FC2 SayMove!」(被告サービス2)および「FC2 ひまわり動画」(被告サービス3)を運営していた。
 
 原告は、被告FC2が被告サービス1~3にかかる各システム(被告システム1~3)が、本件発明1・2の技術的範囲に属し、被告FC2の行為は被告システム1~3の「生産」に該当し、本件特許を侵害するとして、差止めおよび損害賠償を求めて東京地裁に訴訟を提起した(東京地裁令和元年(ワ)第25152号)。
 なお、原告は共同被告として、株式会社ホームページシステム(被告HPS)も提訴した。

 東京地裁は、令和4年3月24日、原告の請求を全て棄却する判決をした(原判決)。
 原判決は、被告システム1~3が本件発明1・2の構成要件を充足し、各発明の技術的範囲に属するものの、被告FC2の行為は、特許法第2条第3項第1号の「生産」には該当しないと判断した。その理由として、原判決は、 

(1)特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味する属地主義の原則からは、「生産」は日本国内におけるものに限定され、「生産」に当たるためには、特許発明の構成要件の全てを満たす物が日本国内において新たに作り出されることが必要であるところ、被告システムにおいて被告FC2が管理するサーバはいずれも米国内に存在し、日本国内には存在しないから、「コメント配信システム」が日本国内において「生産」されていると認めることはできないこと、並びに、 
 
(2)被告FC2が本件特許の責任を回避するためにサーバを日本国外に設置し、実質的には日本国内から管理しているといった、結論として著しく妥当性を欠くとの評価を基礎付けるような事情は認められないこと、
 
 を挙げた。
 
 また、原判決は、被告HPSによる被告システムの「生産」も認められないとした。
 
 原告は、原判決を不服として、知財高裁に控訴した。
 知財高裁は、原告の申立てに基づき、第三者意見募集制度(特許法第105条の2の11)を利用した意見募集を行った上で、本件を大合議により審理した。
 
本判決
 
 知財高裁は、令和5年5月26日、原判決を一部変更し、原告の被告FC2に対する差止めおよび損害賠償請求を一部認容する判決をした(本判決)。
 
 1.システムを新たに作り出す行為
 
 まず、本判決は、被告システムを新たに作り出す行為が何であるかを検討した。
 
 本判決は、ユーザが被告サービスを利用する過程において、被告FC2の動画配信用サーバが動画ファイルを、被告FC2のコメント配信用サーバがコメントファイルを、それぞれユーザ端末に送信し、ユーザ端末がこれらを受信しているところ、この受信の時点において、動画配信用サーバおよびコメント配信用サーバがインターネットを利用したネットワークを介して接続されており、この時点で本件発明の全ての構成要件を充足する機能を備えた被告システムが新たに作り出されたといえる、とした。
 
 2.「生産」該当性
 
 次に、本判決は、かかる被告システムを新たに作り出す行為(本件生産)が、特許法第2条第3項第1号の「生産」に該当するか否かを検討した。
 すなわち、本判決は、被告システムにおいて、動画配信用サーバおよびコメント配信用サーバはいずれも米国に存在するのに対し、ユーザ端末は日本国内に存在しており、前記ファイルのサーバ・ユーザ端末間の送受信は米国と日本にまたがって行われること、および、新たに作り出される被告システムは米国と日本にわたって存在することとの関係で、属地主義の原則から、本件生産が特許法第2条第3項第1号の「生産」に該当するか否かを検討した。
 
 本判決は、ネットワーク型システムの発明について、属地主義の原則を厳格に解釈し、当該システムの構成要素の一部であるサーバが日本国外に存在することを理由に一律に「実施」に該当しないと解することは、サーバを日本国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができないことになり、妥当ではなく、他方で、システムの構成要素の一部である端末が国内に存在することを理由に一律に「実施」に該当すると解することは、特許権の過剰な保護となり、経済活動に支障を生じる事態となり得、これも妥当ではない、と指摘した。
 これを踏まえて、本判決は、ネットワーク型システムを新たに作り出す行為が「生産」に該当するか否かについては、システムの構成要素の一部であるサーバが国外に存在する場合であっても、当該行為の具体的態様、当該システムを構成する各要素のうち国内に存在するものが当該発明において果たす機能・役割、当該システムの利用によって当該発明の効果が得られる場所、その利用が当該発明の特許権者の経済的利益に与える影響等を総合考慮し、当該行為が日本の領域内で行われたとみることができるときは、「生産」に該当するのが相当である、と述べた。
 その上で、本判決は、
 
(1)本件生産の具体的態様は、米国に存在するサーバから国内のユーザ端末への各ファイルへの送信、ユーザ端末によるファイルの受信であり、送受信は一体として行われ、国内のユーザ端末が各ファイルを受信することによって被告システムが完成することからすれば、上記送受信は日本国内で行われたものと観念できること、 
 
(2)国内に存在するユーザ端末は、本件発明の主要な機能を果たしていること、 
 
(3)コメントを利用したコミュニケーションにおける娯楽性の向上という発明の効果は国内で発現していること、 
 
(4)日本国内における被告システムの利用は、原告が本件発明に係るシステムを日本国内で利用して得る経済的利益に影響を及ぼし得ること、 
 
 を挙げ、これらの事情を総合考慮すると、本件生産は日本の領域内で行われたとみることができるから、「生産」に該当する、と判断した。 
 
 3.「生産」の主体
 
 さらに、本判決は、被告システムにおいては被告FC2がサーバを管理しており、サーバがファイルをユーザ端末に送信し、ユーザ端末によるファイルの受信はユーザによる別途の操作を介することなく自動的に行われるものであることからすれば、被告システムを「生産」した主体は被告FC2であると判断した。
 
 4.結論
 
 以上に基づき、本判決は、原告の被告FC2に対する差止めおよび損害賠償請求を一部認容した。
 (なお、被告HPSについては、本判決は、被告HPSは被告サービスに関する業務を行っていたとは認められないとして、原告の被告HPSに対する請求を棄却した原判決の結論を維持した。)

検討
 
 今回の知財高裁判決は、システムの構成要素の一部であるサーバが日本国外に存在するとしても、当該システムを新たに作り出す行為が特許法第2条第3項1号の「生産」に該当し、かかる行為に対して日本の特許権の効力が及ぶ場合があることを認めた判決である。
 本判決は、海外に設置したサーバを用いてインターネットを経由して日本国内で提供されるサービスについて、属地主義の下において、日本の特許権に基づきいかなる対応をとることが可能であるかを検討する上で、非常に注目される判決である。
 
 他方で、本判決は、ネットワーク型システムの「生産」について、やや特殊な理解を採用しているように思われる。
 
 ネットワーク型システムの「生産」と言った場合、通常は、サーバや端末を設置し、それらをネットワークに接続することを「生産」と呼ぶことが多いのではないかと思われる。このような理解を前提とした場合には、サーバや端末の設置およびネットワークへの接続を含む一連の行為が「生産」であり、日本の特許権の効力が及ぶためには、それら一連の行為が全て日本国内で行われる必要がある、という結論に至りやすいように思われる。(原判決も、このような理解を採用しているのではないか、と推測されるところである。)
 
 これに対し、本判決は、既にサーバおよび端末が設置され、ネットワークに接続済みであることを前提として、サーバから端末に対してファイルが送信され、これを端末が受信した時点でネットワーク型システムが「生産」されるものであり、かつ、かかる送受信行為こそが「生産」である、という理解を採用している。要するに、本判決は、システムを完成させるための最後のステップこそが「生産」であり、かかる最後のステップが日本国内で行われていれば、それよりも前の、サーバや端末の設置およびネットワークへの接続を含む一連の行為がどこで行われていようとも、日本の特許権の効力は及ぶ、と解釈している節がある。
 
 本判決による「生産」の上記のような理解、また、そもそもサーバ・端末間でファイルが送受信されるまではシステムは「生産」されないのか(なお、本判決も認めるとおり、ファイルの送受信の時点でシステムが「生産」される、という理解を採用した場合には、ファイルが送受信される都度、新たなシステムが「生産」されることになる。)という点については、疑問の余地がない訳ではないように思われる。
 
 なお、本判決に対しては、上告および上告受理の申立てがなされたとのことである。
 知財高裁の大合議判決については、最高裁が上告受理の申立てを認めるケースが比較的多いが、本件について最高裁が判断を示すことになるかどうかについても、今後の動向が非常に注目されるところである。
 
本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

第一審判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責: 乾 裕介 (弁護士・弁理士・ニューヨーク州弁護士)