令和3年3月31日号

商標ニュース

就職支援に関するウェブサービスに「リシュ活」等の標章を使用する行為について、当該標章が第35類等の役務に関する登録商標「Re就活」に類似し、商標権侵害に当たると判断された事例

 「Re就活」の文字からなる商標について「求人情報の提供」等の役務を指定した商標権を保有する原告が、被告の「リシュ活」の文字からなる標章等を就職支援に関するウェブサービスに使用する行為について、当該商標権の侵害に当たるとして被告の標章の使用差止め等を求め、損害賠償として1億円の支払いを求めた。これに対して、大阪地裁は、具体的な取引の実情も考慮して原告の商標と被告標章とが類似するとし、原告の商標権の指定役務と被告標章が使用される役務とが同一又は類似であるとして、被告標章の使用差止め等を認めた一方で、損害額については請求の一部である44万3919円のみを認めた。(大阪地裁令和3年1月12日判決(平成30年(ワ)11672号))。

事案の概要

 原告は、インターネット上で求人情報、求職者情報の提供を業とする会社であり、以下の商標権(本件商標)を保有している。インターネット上に「Re就活」との名称を掲げたウェブサイトを開設し、求人企業の依頼を受けて第二新卒といわれる若年転職希望者を中心とした20代の求職者を対象とした求人広告や就職活動に関する情報を掲載するとともに、会員登録をした求職者に対し、希望条件等に合致する求人情報等のメールを送信するサービスを行っていた。

商標:      (標準文字)
登録番号:    第4898960号
指定商品・役務: 第35類 広告,職業のあっせん,求人情報の提供等

 被告は、他社が管理する履修履歴データベースの利用を促し、企業の採用活動・学生の就職活動において大学等での履修科目、単位数及び成績評価(=履修履歴)が重視されるようにすることを目的とする一般社団法人であり、就職、採用のあっせん等を業とする企業を会員として構成されている。
 被告は、「リシュ活」という標章を使用し、スマートフォン用アプリケーション等を通じて、会員登録した求職者に対し、大学等での履修科目に関連する先輩社員情報等の就職情報を提供し、また、自己の履修履歴を登録した求職者に対し、被告に加盟する企業等からのオファーメッセージを受領できる求職者向けのウェブサービスを行っていた。さらに、当該ウェブサービスでは、被告の加盟企業等が登録した先輩社員情報等を会員登録した求職者にアプリケーション上でリコメンド表示されるように設定し、また加盟企業等が会員登録した求職者に対してオファーメッセージを送信できる求人企業向け履修履歴オファーサービスも提供していた。「リシュ活」とは、「履修履歴活用」の略として使用されている。
 被告の「リシュ活」標章には、以下の8種類がある(https://risyu-katsu.jp/wp-content/uploads/2021/01/hyosho.pdf)。

被告標章1:
被告標章2:
被告標章3:
被告標章4:
被告標章5:
被告標章6:risyu-katsu.jp
被告標章7:twitter.com/risyukatsu
被告標章8:peac.jp/risyu-katsu

 被告は、これらの被告標章を職業のあっせん、求人情報の提供等の役務に関する広告を内容とするパンフレット等に付して展示、頒布し、またインターネット上で掲載していたところ、原告は本件商標と各被告標章とが類似し、また各被告標章が使用される役務についても本件商標権の指定役務と同一又は類似であるから、これらの行為が本件商標権の侵害に当たるとして、商標法36条1項、2項、37条1号に基づきこれらの行為の差止め等を求めた。また、被告商標6については、ドメイン名の使用が不正競争行為にも当たるとして、不正競争防止法2条1項19号、3条1項、2項に基づき、ドメイン名の使用の差止め及び抹消登録手続きを求めた。さらに、原告は、被告が被告の役務について2万人の学生から個人情報を取得しており、これらの個人情報の財産的価値は一人当たり5万円である等と述べて、商標法38条3項の使用料相当額として1億円の損害賠償を求めた。

本判決

 大阪地裁は、本件商標権の指定役務と各被告標章が使用されている役務とが同一又は類似であると判断し、さらに、本件商標と各被告標章とが称呼において類似するとして、被告の役務についての各被告標章の使用は、需要者に出所に関する誤認混同を生じさせるおそれがあり、本件商標権を侵害すると判断した。具体的には、以下のような判断を行っている。

(1)役務の類否について
 被告が運営するウェブサービスは、求人企業のために、当該企業に興味を持ちそうな者に対し、当該企業の仕事の魅力や企業情報を伝達するものであるから、本件商標の指定役務である「広告」や「求人情報の提供」に該当する。また、会員登録した者へのオファーメッセージ送信サービスは、アプリケーションの利用者にとっては本件商標の指定役務である「職業のあっせん」や「求人情報の提供」に相当し、実際には被告は個々のオファーメッセージの内容に関与していないとしても、外形的にはこれらの指定役務に類似する。

(2)本件商標と各被告標章との類否について
①需要者の範囲
 本件商標が使用されている原告の事業は、第二新卒を中心とする20代の求職者を対象としたウェブサイト上での求人情報の提供等であるから、本件商標に係る役務の需要者は、「第二新卒を中心とする新卒以外の若年求職者の採用を希望して求人広告等を依頼しようとする求人企業」と、「第二新卒を中心とする新卒以外の若年求職者」である。
 これに対して、被告のウェブサービスの利用者はデータベースに大学等での履修履歴等の情報を登録することが前提とされ、基本的には大学等に在学中の者が想定されているため、被告の役務の需要者は、「新卒の求職者を採用するために広告等を希望する求人企業」及び「就職を希望する学生」である。

②被告標章1
・外観、称呼、観念
 本件商標中の「Re」の語は、「あとに」や「再び」という意味の英語の接頭語と理解され、「リ」と発音されるため、本件商標からは、「リシューカツ」の称呼と「通常の時期よりも後に行う就職活動」ないし「再び行う就職活動」の観念が生じる。
 被告標章1からは、「リシュカツ」の称呼が生じるが、これは造語であり、「リシュ」の語が「履修履歴」の略語として一般的に使用されているとは認められず、また「活」の語は「活用」よりも「活動」の略語として使用されることが多いため、「履修履歴の活用」というような観念は生じない。(なお、この点について、原告は、「リシュカツ」の発音のしにくさ等から被告標章1から「リシューカツ」の称呼も生じ、また本件商標が周知であるとして被告標章1からも「再度の就職活動」の観念が生じると主張した。しかし、これらの主張は認められず、被告標章1からは、特定の観念は生じないと判断された。)
 そして、外観については、欧文字2文字と漢字2文字からなる本件商標と、カタカナ2文字と漢字1文字からなる被告標章1とでは、語尾の「活」の一文字のみが共通しているにすぎず、両者の外観は類似するものとは認めがたい。

このように、本件商標と被告標章1とは、外観において相違し、観念は比較できないものの、称呼においては長音の有無が異なるにすぎず、長音は他の明確な発音と比べて比較的印象に残りにくいことから、極めて類似している。

・取引の実情
 さらに、上記の需要者における取引の実情について、求人企業にとっては、被告のウェブサービスの利用に当たっては相応の料金の支払いが伴うことから、求人媒体が多数ある中で、どの程度の経費を投じていかなる媒体を利用するかは慎重に検討されるものであり、外観や観念が類似しない本件商標と被告標章1とを誤認混同するおそれがあるとは認めがたい。その一方で、求職者については、被告のウェブサービスへは無料で簡易に会員登録でき、また情報を得て就職先の選択肢を広げる意味で複数のサイトに会員登録する動機もあり実際に多数の大学生が複数の就職情報サイトに登録していることが認められるため、求職者については、利用に当たって必ずしも役務内容を精査するものではない。さらに、原告も被告もインターネット上で役務を提供しているところ、「インターネット上のウェブサイトやアプリケーションにアクセスする方法としては、検索エンジン等を利用した文字列による検索が一般的であり、正確な表記ではなく、称呼に基づくひらがなやカタカナでの検索も一般に行われており、ウェブサイトや検索エンジン側においてもあいまいな表記による検索にも対応できるようにしていることが広く知られている」とし、求職者は外観よりも称呼をより強く記憶し、称呼によって役務の利用に至ることが多い。

このような取引の事情をもとに、裁判所は、需要者(求職者)に与える印象や記憶においては、本件商標と被告標章1とでは、「外観の差異よりも、称呼の類似性の影響が大きく」、「学生等の求職者において、被告標章1を本件商標に係る役務の名称と誤認混同したり、本件商標に係る役務と被告役務とが、同一の主体により提供されるものと誤信するおそれがある」と判断した。

③被告標章2乃至8
 被告標章2乃至8についても、基本的に被告標章1の場合と同様に、「リシュ活」、「risyu-katsu」及び「rishukatsu」の部分が要部として本件商標と対比され、上記の需要者である求職者においては外観の差異よりも称呼の類似性が強い影響を与えるとの取引の実情に鑑みて、それぞれ本件商標と類似すると判断された。

(3)損害額について
 裁判所は、損害額については、個人情報の財産的価値をもとに算定される使用料相当分の主張は認められず、該当期間に被告が被告役務の提供の対価として得た金額をシステム利用料収入223万9196円と認め、その10%を使用料相当額として22万3919円の損害を認めた(全体の認容額は、当該金額に弁護士費用22万円を加えた44万3919円とそれについての遅延損害金)。

検討

 侵害事件における商標の類否は、基本的には査定系事件と同様に外観、称呼、観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察することによって、出所混同のおそれがあるか否かを判断するという手法がとられているが、商品・役務の取引がすでに行われている侵害事件においては、取引の実情についてより個別具体的な事情が考慮されることになる。
 外観、称呼、観念の三要素のうち、従来は、電話取引やラジオ・テレビでの宣伝等といった口頭での説明が主な取引形態とされてきたことから、称呼が類否判断に与える影響が最も強いように考えられてきたが、近年は、取引形態の変化に伴い、外観や観念の要素もより考慮され、称呼が同一又は類似であっても、他の要素の相違を理由に非類似と判断される例が以前よりも増えているようである。このような傾向の中、本件は個別具体的な事情が考慮されやすい侵害事件であり、またあくまでも事案に則した判断ではあるが、一見、外観上はだいぶ異なるように思われる標章について、どのウェブサービスを利用するのか選定するに当たって、検索エンジンの利用が一般的になっていることを考慮し、外観の差異よりも称呼の類似性が需要者に与える影響に着目して、結論として称呼の類似性をもとに出所について誤認混同のおそれがあると判断している。この取引の実情の認定自体については、異論のあるところかもしれないが、類否判断に当たっての三要素の関係について、従来とはやや異なる視点を与えうるものではないかとも思われる。
 なお、被告は、本件商標と指定役務が一部同一又は類似の役務について標準文字で「リシュ活」からなる商標の登録を得ている(登録第6179363号)。審査において本件商標等が引用されたが、意見書において非類似が主張され登録に至ったものであり、本判決とは異なる判断となった。被告ウェブサイトによると、被告は本判決に対し控訴したとのことであり、控訴審の判断が待たれる。

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文責: 本阿弥 友子(弁護士)