令和元年9月27日号

特許ニュース

知的財産高等裁判所特別部、特許法102条第2項および第3項についての基準を示す。

特許第4659980号、特許第4912492号を有する被控訴人が、控訴人ら7社に対し、控訴人らが製造販売する炭酸パック化粧料が本件各特許権に係る発明の技術的範囲に属するなどと主張して特許権侵害に基づく損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案において、被控訴人は特許法102条2項及び同条3項による損害額を主張して、いずれか高額となる方を認容することを求めたところ、原判決は、控訴人らによる本件各特許権の侵害を認めた上で、控訴人らに対する損害賠償請求の一部(合計約1億4000万円)を認容し、知財高裁特別部(大合議)も控訴人らの特許権侵害を認めた上で、特許法102条第2項および第3項についての基準を示し、控訴を棄却した(令和元年6月7日知財高裁大合議判決(平成30年(ネ)第10063号))。

事案の概要

被控訴人株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズは、一審原告、特許権者であり、化粧品メーカーである。

控訴人らネオケミア株式会社,株式会社コスメプロ,株式会社アイリカ,株式会社キアラマキアート,ウインセンス株式会社,株式会社コスメボーゼ,クリアノワール株式会社は、一審被告であり、被告各製品を製造および/または販売している。

被告各製品は、いずれも、炭酸パック化粧料、すなわち、(1)A剤(顆粒)とB剤(ジェル)を軽く混ぜ合わせ,少し厚め(1㎜程度)に顔全体に広げる、(2)パックの目安時間は20ないし30分程度、(3)パック終了後,付属のスパチュラでジェルを取り除く、(4)顔にジェルが残らないように,最後に軽く洗顔し洗い流す、という使い方をする、炭酸ガスを含有するパック製品である。

本判決

本件の争点は、(1)充足論、(2)間接侵害の成否、(3)被告製品が本件各特許発明の作用効果を奏するか、(4)無効論、(5)損害論すなわち102条2項、3項であった。本判決は、被告各製品は特許発明の技術的範囲に属し、特許の無効理由が存するとは認められないとした上で、被控訴人の損害額について、概要、以下のとおり判示して、控訴人らの控訴を棄却した。

5 損害(特許法102条2項)(争点6-1)

(1) 特許法102条2項について

特許法102条2項は,「特許権者…が故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者…が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。そして,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。

・・・中略・・・

特許法102条2項の上記趣旨からすると,同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。もっとも,上記規定は推定規定であるから,侵害者の側で,侵害者が得た利益の一部又は全部について,特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるものということができる。

・・・中略・・・

(2) 侵害行為により侵害者が受けた利益の額

ア 利益の意義

特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。

・・・中略・・・

ウ 控除すべき経費

(ア) 前記のとおり,控除すべき経費は,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものをいい,例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運送費等がこれに当たる。これに対し,例えば,管理部門の人件費や交通・通信費等は,通常,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない。

・・・略・・・


上記のとおり述べた後、本判決は各費用が控除すべき経費かどうかを「製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となったものであるか」という判断基準に照らして判断した。

続いて推定覆滅の意義に関して述べた。なお、結論としては、一審判決同様、推定覆滅は認めなかった。

(3) 推定覆滅事由について

ア 推定覆滅の事情

特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法102条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。

・・・略・・・


 続いて102条3項につき、以下のとおりその法的性質から一般論を述べた。

6 損害(特許法102条3項)(争点6-2)

(1) 特許法102条3項について

ア 被控訴人は,選択的に,別紙「損害額一覧表」の「被控訴人主張額」「3項による損害額」欄記載のとおり,特許法102条3項により算定される損害額も主張している。特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。

イ 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。

(2) その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額

ア 特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については,平成10年法律第51号による改正前は「その特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額」と定められていたところ,「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,同改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。特許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定されるのに対し,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わない。そして,上記のような特許法改正の経緯に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,むしろ,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。

したがって,実施に対し受けるべき料率は,(1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,(2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,(3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。


 以上の一般論を前提に、本判決は合理的な料率を10%と認定した。

イ 認定事実

(ア) 本件各特許についての実際の実施許諾契約の実施料率は本件訴訟に現れていないところ,証拠(甲48,乙A49)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

a 株式会社帝国データバンクが作成した「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~(平成22年3月)」(以下「本件報告書」という。)の表Ⅲ-10には,国内企業のロイヤルティ料率に関するアンケート結果として,産業分野を化学とする特許のロイヤルティ率は5.3%と記載されている。もっとも,平成19年の国内企業・団体に対するアンケート結果を記載した表Ⅱ-3には,技術分類を化学とする特許のロイヤルティ率の平均は4.3%(最大値32.5%,最低0.5%)(件数103件)と記載されている。

b 本件報告書の表Ⅲ-12には,平成16年から平成20年までの産業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は,平均値6.1%(最大値20%,最小値0.3%)(件数5件)と記載されている。他方で,本件報告書の表Ⅲ-11には,平成9年から平成20年までの産業分野を化学とする特許の司法決定によるロイヤルティ料率は,平均値3.1%(中央値3.0%,最高値5.0%,件数7件)と記載されている。

c 被控訴人の保有する他の特許権に関する和解

(a) 被控訴人は,本件各特許権のほかに,下記の特許第5164438号(甲51の1。以下「別件特許」という。)を保有している。

・・・中略・・・

(b) 被控訴人による訴訟外の和解

被控訴人は,株式会社エイチ・ツー・オーに対し,別件特許に係る特許権に基づき,同社が製造,販売している製品の製造,販売の中止を求め,同社との間で,平成25年4月30日,その製品の売上高の10%に相当する56万1219円の解決金の支払を受けることなどを内容とする訴訟外の和解をし,その解決金の支払を受けた(甲49,57の1)。

被控訴人は,株式会社ライズに対し,別件特許に係る特許権に基づき,同社が販売している製品の販売の中止を求め,同社との間で,平成25年10月1日,その製品の売上高の10%に相当する34万6225円の解決金の支払を受けることなどを内容とする訴訟外の和解をし,その解決金の支払を受けた(甲50,57の2)。

(イ) 前記1(4)ア(イ)のとおり,本件発明1-1及び本件発明2-1は,2剤型のキットの1剤につきアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物とし,炭酸塩と酸を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させ,得られた二酸化炭素含有粘性組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織や皮膚に適用して二酸化炭素を持続的に皮下組織等に供給することにより,美肌,部分肥満改善等に効果をもたらすものである。そして,本件発明1-1及び本件発明2-1は,二酸化炭素を気泡状で保持させる化粧料等において1剤につきアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物とする点において,化粧料における剤型という構成全体に関わる発明であり,相応の重要性を有するものということができる。また,二酸化炭素を気泡状で保持させる化粧料等に関し,2剤型のキットの1剤につきアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物とする従来技術は存在せず,この点についての代替技術が存在することはうかがわれない。

(ウ) 前記5(3)キのとおり,本件発明1-1及び本件発明2-1は被告各製品の全体について実施されているというべきである。そして,パック化粧料における剤型は,需要者の購入動機に影響を与えるものであるから,上記両発明を被告各製品に用いることにより控訴人らの売上げ及び利益に貢献するものと認められる。

(エ) 控訴人と被控訴人はいずれも化粧品の製造販売業者であり,競業関係にある。

ウ 実施に対し受けるべき金銭の額

上記のとおり,(1)本件訴訟において本件各特許の実際の実施許諾契約の実施料率は現れていないところ,本件各特許の技術分野が属する分野の近年の統計上の平均的な実施料率が,国内企業のアンケート結果では5.3%で,司法決定では6.1%であること及び被控訴人の保有する同じ分野の特許の特許権侵害に関する解決金を売上高の10%とした事例があること,(2)本件発明1-1及び本件発明2-1は相応の重要性を有し,代替技術があるものではないこと,(3)本件発明1-1及び本件発明2-1の実施は被告各製品の売上げ及び利益に貢献するものといえること,(4)被控訴人と控訴人らは競業関係にあることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は10%を下らないものと認めるのが相当である。なお,本件特許権1及び本件特許権2の内容に照らし,一方のみの場合と双方を合わせた場合でその料率は異ならないものと解すべきである。

・・・略・・・

検討

以下検討する通り、本判決には、大きく特許実務を変更するような判断は含まれていないと考えられる。

まず、本判決は、ごみ貯蔵機器事件(知財高大判平25・2・1)同様、特許法102条2項は法律上の事実推定を定めたものであり、その趣旨は、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、特許権者の立証の困難性の軽減を図ったものであることを前提に、特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められるとした。

その上で、特許法102条2項の上記趣旨からすると,同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、原則、侵害者が得た利益全額であるとし、原則として侵害の行為により受けた利益について侵害行為と相当因果関係のある利益に限定しない、いわゆる全額説を採ることを明確にした。この点で、特許法102条2項が侵害の行為「により」と規定することから侵害の行為により受けた利益は侵害行為と相当因果関係ある利益に限られ、特許権者がこれを立証すべきとする見解、いわゆる限定説は否定された。

そして、特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は、侵害者の侵害品の売上高から侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した「限界利益」の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきであると述べ、(侵害者を基準とした)限界利益説を述べた。

すなわち、侵害者が得た利益全額を特許権者が主張立証し、これに対して侵害者が限界利益の額を主張立証すべきだとした。一部の裁判例において、限界利益説に立ちつつ限界利益の主張立証責任を特許権者が負うことを前提とした判断をしたものも見られていたため、当該主張立証構造を明らかにした点は注目に値すると言える。

なお、本判決は上記に関連し「例えば,侵害品についての原材料費,仕入費用,運送費等がこれに当たる。これに対し,例えば,管理部門の人件費や交通・通信費等は,通常,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費には当たらない」との判断を述べつつも、被告らが控除すべきと主張する経費について個別具体的に「侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」に該当するかを判断している。

推定覆滅については、侵害者の側で,侵害者が得た利益の一部又は全部について,特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるとし、「推定覆滅の事情として考慮することができる」事情(注:推定覆滅がなされる事由ではない)として、『(1)特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),(2)市場における競合品の存在,(3)侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),(4)侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情』が例示列挙された。なお、これらの事情は、髙部真紀子「特許法102条2項の適用をめぐる諸問題」(知財ぷりずむ第14巻第160号第18-26頁)に記載の事由と完全に同一である。

他方、中山ら編『新・注解特許法〔第2版〕中巻』1936頁(飯田圭)を見てみると、推定覆滅事由としては以下のような事情が列記されている:
特許権者の実施余力の不存在、特許権者の製品と侵害品との用途・用法等の相違、他の非侵害代替・競合品・サービスの存在・シェア、侵害者の市場開発努力・営業努力・周知性・ブランド力・販売能力・独自の販売形態等、侵害品の他の特徴、侵害品の価格の低さ、特許権者等の製品と侵害品との販売地域の非競合、特許権者等の製品と侵害品との取引先・販売経路の非競合、特許権者等の製品と侵害品との需要者の非競合、非のみ型・多機能型・主観的間接侵害品が直接侵害用途に用いられなかったこと、特許発明の非寄与率、特許権等の共有者の共有持分比等。

これらの事情は、本判決が明示的に例示した考慮事由と概ね沿うものであるが、3項との兼ね合いで「特許権者の実施余力の不存在」が考慮されるのかは今後の判断が待たれる。

その他、本件では、本件特許発明が被告各製品の全体に実施されているものではあるが、特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合につき特許法102条2項の推定の覆滅の事情と整理することが述べられている。


本判決は102条第3項の意義については、通説どおり最低限度の損害額を法定したものと解し、また、実施料率算定についても、現在までの判決に沿う形で、訴訟に現れた諸事情を総合考慮することを述べた。

102条3項改正との関連で、実施料率算定にあたっては、訴訟において特許有効かつ侵害となった場合には平時のライセンスにおける実施料率よりも高額になるであろうことを考慮すべき旨を知財高裁として初めて明らかにしてはいるが、この点については、田村善之「特許権侵害に対する損害賠償額の算定に関する裁判例の動向」(知財管理第55巻第3号第361-378頁)に、「侵害訴訟の裁判所において,特許権侵害が認定され,明らかな無効理由がないと判断された後に算定される適正な実施料額と,裁判所に訴えが提起される前に,特許権侵害が成立するか否か,特許が無効とされる否かということについて確定的な判断がない状況下で当事者間において互いの交渉力等も考慮して締結される実際の実施許諾契約における実施料率と比べて,より高額となるとしても不合理とはいえないはずであるということである」と記載されているように、実務上は本判決前から通説的見解であった。

なお、考慮要素としては、「(1)当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、(2)当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、(3)当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、(4)特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等」という4つの事情を例示的に列挙しているところ、いずれの考慮要素も概ね実務通説に沿う内容である。

例えば、牧野ら編『知的財産法の理論と実務第2巻』294頁(高島「損害3 特許法102条3項に基づく請求について」)には、以下の考慮要素が記載されている:
当該特許発明の実施許諾例、業界相場、当該特許発明の内容、他の技術による代替可能性、当該特許発明の寄与度、侵害者の利益、特許権者の実施許諾についての姿勢、競業関係、侵害者の努力。

このように本判決は、いずれの判断基準・主張立証責任・考慮要素も実務通説と相違するものではないものの、知財高裁大合議判決として、一定の判断をしたという点に意義があるといえる。
102条3項の合理的な実施料率の数値の定め方は、102条1項2項に比して予測可能性が低い。そのため、より明確な算定基準(理想的には、約定実施料が立証された場合には当該約定実施料を基準とし、そうでない場合には、寄与度等の事情毎に、ある事情があれば業界平均実施料率よりもXパーセント高くなる等)が望まれる。

本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責: 鈴木 佑一郎(弁護士・弁理士)