令和元年5月23日号

商標ニュース

海外商標制度の新たな動き

本年は、海外の商標制度において、いくつもの大きな動きが予定されています。ここで、主たる2つの大きな動きと、注意すべき点を解説します。

1. カナダ商標法改正

 2019年6月17日、いよいよカナダの改正商標法が施行されます。これまで「分類の無い国」だったカナダがニース分類を採用し、出願の際に必要だった「基礎」や「使用宣誓書」は撤廃されます。
 これらは既に係属中の出願に対しても適用されるため、6月17日以降は、登録に際し、商標の使用を証明する必要がなくなります。また、6月17日からマドリッド・プロトコールの利用も可能になります。このほか、味の商標、触覚の商標といった新しいタイプの商標の登録が可能となったり、存続期間が15年から10年へと短縮されたり、まったく新たな商標法が誕生します。
 この法改正に伴い、現在、カナダへの商標出願を検討中の日本企業は、以下の諸点を考慮し、6月17日以前に出願をしたほうがよいと思われます。

(1)出願費用の増加
 これまで、カナダには分類がなかったため、一つの出願に商品や役務をいくつでも書くことができましたが、今後は、ニース分類にしたがい、分類ごとに印紙代が発生することになります。具体的には、これまで、1出願250カナダドルだった印紙代が、6月17日以降は、1区分目が330カナダドル、2区分目以降100カナダドルずつ加算されることになりました。
(2)冒認出願の懸念
 使用主義を採用していたカナダが、登録主義的色彩の強い新商標法を施行するため、冒認出願(他人の商標を無関係の第三者が剽窃・先取して出願すること)の増加が懸念されています。このような不正目的(bad faith)の商標の出願や使用を防止するための法律も可決されましたが、まだ施行にはいたっていません。したがって、カナダで保護されていない商標については、一日も早く出願することが最善の策かと思われます。
(3)使用の情報について
 6月17日以前の出願には、使用に関する情報を願書に書くことが求められますが、この要件は、6月17日に撤廃されます。そして、仮に6月17日以前に出願した願書に使用に関する誤った情報が記載されていたとしても、6月17日以後、そのような誤記が、出願の有効性に影響を与えることはほぼないそうです。

2. イギリスの欧州連合離脱(Brexit)

 2019年3月29日に予定されていたイギリスの欧州連合からの離脱(Brexit)は、ご承知のとおり、10月31日まで延期されました。この原稿を書いている段階(5月17日)でも、どのような形でBrexitが行われるのか?(そもそも本当に行われるのか? 「合意なき離脱」となってしまうのか?等)は不透明であり、商標制度に与える実際の影響もまだよくわかっておりません。しかしながら、イギリスおよび欧州に商標出願を検討中の企業、及び、イギリスを含む欧州商標登録(EUTM)を保有する企業は、少なくとも、以下の点に留意する必要があります。
 まず、現在有効なEUTMの所有者には、Brexitがどのような形で行われようとも、イギリスにおいて、同内容の権利が自動的に与えられることになっています。したがって、イギリスを含む欧州に、現在、出願を検討中の場合には、一日も早くEUTM出願をされることをお勧めします。その方が出願費用を低く抑えることが可能となるからです。特に、出願分類が複数に渡る場合に、その効果は顕著となります。これは、マドリッド・プロトコールを利用して欧州(EM)を指定する場合も同じです。
 ただし、Brexit後にイギリスで自動的に認められるとされる権利は、新たにイギリスで出願・登録されなければ与えられず(これをイギリスは、「クローン出願」「クローン登録」と呼んでいます。)、イギリス知財庁に対して別個独立の手続を取ることが必要とされています。この手続は、まだEUIPOに出願が係属中の場合や、マドリッド・プロトコールの指定国としてEUが領域指定されている場合も同様です。

コメント

 いまだ状況は混沌としており、先を見通せる段階にはありませんが、お伝えすべきことができましたら、このニュースレターですぐにお知らせいたします。カナダ改正法やBrexitに関し、ご不明な点がございましたら、どうぞご遠慮なく当事務所までお問い合わせください。

文責: 加藤 ちあき (弁理士)