平成31年2月28日号

特許ニュース

特許無効審決に対し、共同審判請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟が提起された結果、他の共同審判請求人との関係では無効審決が確定したとして訴えが却下された事例。

2名の共同審判請求人が特許無効審判を請求し、特許庁が特許無効審決をしたのに対し、被請求人が共同審判請求人のうちの1名のみを被告として審決取消訴訟を提起したという事案において、知財高裁は、被告とされなかった共同審判請求人との関係では出訴期間の経過により無効審決が確定したとして、訴えを却下した(知財高裁平成30年12月18日判決(平成30年(行ケ)第10057号))。

事案の概要

マイクロインテレクス株式会社およびX(「原告ら」)は、発明の名称を「二次元コード,ステルスコード、情報コードの読み取り装置及びステルスコードの読み取り装置」とする特許第3910705号(「本件特許」)の特許権者であった。

ワンスパン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハツフング(「被告」)およびOneSpan Japan 株式会社(「訴外会社」)は、共同して、本件特許の請求項1にかかる発明(「本件発明」)についての特許を無効とすることを求め、無効審判を請求した(無効2017-800023)。特許庁は、本件発明は新規性を欠くとして、本件特許を無効とする審決(「本件審決」)をした。

これに対し、原告らは審決取消訴訟を知財高裁に提起した(「本件訴え」)が、その際、原告らが訴訟の相手方としたのは被告のみであり、訴外会社は相手方としなかった。

被告は、複数の審判請求人がいる場合の無効審決に対する審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であり、訴外会社に対する訴えを提起しなかった以上、本件訴えは不適法であると主張した。これに対し、原告らは、本件訴訟は固有必要的訴訟ではなく、また、審決取消訴訟を提起したことにより本件審決の確定は遮断されるから、本件訴えは適法であると主張した。

本判決

知財高裁は、原告らは、被告のみを相手方とし、訴外会社を被告としておらず、また、訴外会社との関係では審決取消訴訟の出訴期間を経過している以上、本件審決は訴外会社との関係では既に確定しており、本件特許は初めから存在しなかったとみなされる結果、本件訴えは訴えの利益を欠く不適法なものとして却下されるべきである、とした。

審決取消訴訟の提起により審決の確定が遮断される、との原告の主張については、知財高裁は、複数の特許無効審判請求につき、請求不成立審決と無効審決とがいずれも確定するという事態は特許法上当然に想定されており、共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは法文上の根拠がなく、その必然性も認められないから、請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合に、被告とされなかった請求人との関係で審決の確定が妨げられることはない、とした。

なお、複数の審判請求人がいる場合の無効審決に対する審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟である、との被告の主張については、知財高裁は、共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは法文上の根拠がなく、その必然性も認められないから、当該審決に対する取消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない、とした。

結論として、知財高裁は、本件訴えを却下した。

検討

本件は、複数の共同審判請求人が特許無効審判を請求し、無効審決がなされたにもかかわらず、特許権者が共同審判請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟を提起したという事案である。本件において、何故、一部の共同審判請求人に対してのみ審決取消訴訟が提起されたのか、その理由は不明である(なお、原告には訴訟代理人はついていない。)が、このような場合、通常は、共同審判請求人の全員を被告として審決取消訴訟を提起することになると思われる。そのような意味では、本件は相当に特殊な事案であるといえる。

なお、審決取消訴訟の当事者適格については、最高裁平成7年3月7日判決は、実用新案登録を受ける権利の共有者が、実用新案登録出願の拒絶査定を受けて共同で審判を請求し、請求不成立審決を受けた場合に提起する審決取消訴訟は、共有者全員で提起することを要する固有必要的共同訴訟である、とした。これに対し、最高裁平成14年3月25日判決は、共有にかかる特許の取消決定に対する取消訴訟は共有者の1名が単独で提起することができ、また、各共有者が提起した取消訴訟を提起した場合には類似必要的共同訴訟に当たるから、併合して審理判断される、とした。

これらの最高裁判決の事案は、いずれも、権利者側が実用新案登録を受ける権利ないし特許権を共有していた事案であり、最高裁はいずれの事案においても、合一確定の必要性を指摘している。共有者ごとに権利の存否についての判断が変わるのは確かに不都合であり、このような場合には、合一確定の必要性が高いといえる。これに対し、本件のように、複数の者が共同して特許無効審判を請求したような場合には、審判請求人ごとに特許権の存否についての判断が変わったとしても、特に不都合であるとはいえない。そのような意味では、審判請求人が複数の場合の無効審決に対する審決取消訴訟については合一確定の必要性はなく、本判決が指摘するとおり、固有必要的共同訴訟ではないと解するのが妥当であると思われる。

本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責: 乾 裕介 (弁護士、弁理士、ニューヨーク州弁護士)