平成29年7月3日号

海外商標ニュース

中国:出願時のオフィシャルフィーの値下げ、区分表以外に認められる指定商品・役務の記載の大幅増加 ~この機会に、ぜひ出願の見直しを~

2016年の年間商標出願件数が369.1万件を超え、実に1日に約1万件は商標出願がなされている計算になる中国は、15年連続で世界第一位の商標の出願件数を誇る。中国では、より利用しやすい制度を目指し、昨今より種々の商標制度改革が図られているが、今回、実現した改革の一つがオフィシャルフィーの値下げであり、もう一つは、認められる指定商品・役務の記載の大幅な増加である。

オフィシャルフィーの値下げ

中国、台湾、韓国、タイ、インドネシアといった国では、区分数のみならず、指定商品・役務の個数によっても、出願時のオフィシャルフィーが大きく変動する。そのため、指定商品・役務の選定に当たっては、オフィシャルフィーの額もしばしば考慮材料となるが、中国では今年に入ってオフィシャルフィーの大幅な値下げが行われた。

中国では従来、一区分ごとの基本料金が800元であり、指定商品・役務の数が10個を超えた場合には、超過した商品・役務一個当たり超過料金80元という料金体系であったところ、まずは2015年10月に、基本料金が600元に、超過料金が一商品・役務当たり60元ずつに、それぞれ引き下げられ、若干の値下げが行われた。

今回は、さらにその半分までオフィシャルフィーの値下げが行われ、2017年4月1日以降の出願からは、一区分ごとの基本料金が300元、指定商品・役務の数が10個を超えた場合の超過した商品・役務一個当たり超過料金が30元に、それぞれ変更された。

基本料金が一区分につき300元(約5,000円)の値下げになった点だけでもメリットであるが、重要な区分について数多くの指定商品・役務を盛り込みたい出願人にとっては、一商品・役務につき約500円の値下げとなるのは、大きなメリットである。

なお、今回の値下げは出願費用についてだけではなく、拒絶査定不服審判請求にかかる費用、登録証の再発行、更新、譲渡やライセンス登録についての手続き費用、異議申立や不使用取消審判請求にかかる費用等についても半額となった。2017年4月1日以降の値下げ後の料金は以下のとおりである。

多くの日本企業にとって、中国は重要な商標出願対象国である場合が多いが、第三者に先を越され出願されてしまうケースも多い中国では、いち早く、幅広い範囲の商品・役務について出願を押さえておくことが重要になる。今回のオフィシャルフィーの値下げにより、日本企業にとってはより出願がしやすくなった一方で、これは日本企業のみならず全ての出願人に通じることであり、すなわち、これまで以上に悪意の出願が増えてくることも同時に懸念される。必要な商標、商品・役務等について十分な権利化ができているか、今一度見直すことをお勧めする。

認められる指定商品・役務の大幅な追加

中国において商標出願をする際、指定商品・役務案の作成においてよく参照されるのが、「類似商品及び役務区分表」である。この、いわゆる区分表上に記載されている商品・役務名であれば標準的な名称として記載が認められる。

2014年に商標法の改正が行われ、審査期間の短縮を目的として商標登録出願についての審査期間を原則9か月以内とする規定が設けられた。この結果、従来は数回は可能であった指定商品・役務についての補正が一度しか認められなくなり、安全策を取って区分表から商品・役務の記載を選択するケースが増えている。

他方で、区分表に適切な商品名の記載がない場合においては、区分表にあるものから近い商品・役務名を選択するしかないケースもあり、権利行使や不使用取消審判請求の場面では立証が難しくなる可能性が懸念される。

そこで中国商標局は、昨年7月~9月にかけて三度にわたり、また今年に入ってからも4月に一度、区分表に掲載されているもの以外でも認められるべき指定商品・役務の記載を発表した。その項目数は全体で3,300個を超える。

第9類の例を挙げると、SIMカード、MP4プレーヤー、4Kテレビ、カラオケ用機器、LEDパネル、LEDディスプレイ、USBケーブル、USB充電器、RFIDタグ、RFIDリーダー、POS機など新しい製品が多く見受けられる。例えばPOS機については、従来は「データ処理装置」などとして指定をする必要があった。

さらに、ニース分類が第11版になったことに伴い、中国における区分表も改訂され、2017年1月1日より新しい区分表が採用されている。大きく変わったものとして一例を挙げると、第25類における「ウェディングドレス」が、従来は単一商品として類似群2513に属し、他の被服類とは類似しないという取り扱いになっていたところ、新しい区分表では「被服」と類似関係にあることになった。これにより、従来の基準に基づき先行商標との関係で「被服」については登録が認められず「ウェディングドレス」しか登録に残せなかったという商標をお持ちの場合でも、今後は同一または類似する商標について「被服」を指定して出願がなされた場合、先願・先登録商標として引用されることになる。

これらの指定商品・役務の記載に関する制度改正を踏まえて、中国において新しい出願をされる場合には、ぜひ、指定商品・役務を一度見直すことをお勧めする。

文責: 山崎 理佳 (カリフォルニア州弁護士)