「コメダ珈琲店」を運営する会社が、同店舗に外観等が似ているとして、和歌山市にある「マサキ珈琲店」に対し、店舗建物等の使用差し止めを求めた仮処分事件において、東京地裁は仮処分を認める決定を下した(東京地裁平成28年12月19日決定(平成27年(ヨ)第22042号))。
事実関係
債権者(株式会社コメダ)は、「珈琲所コメダ珈琲店」等の喫茶店事業を行う会社である。コメダ珈琲店は、昭和43年に名古屋市に1号店が出店された後、愛知県下、さらには岐阜県および三重県を加えた東海三県で、出店が重ねられ、その後、全国展開が進められた結果、平成27年5月10日には全国37都道府県に628店舗を擁するようになり、店舗数で全国第3位のコーヒーチェーンとなった。
コメダ珈琲店の店舗タイプは、①都市部における商業ビル等の一角に設けられるビルイン型およびショッピングモールの一角に設けられるSCモール型と、②郊外において幹線道路等に面して一戸建ての店舗建物が設けられる郊外型(ロードサイド型)とに大別される。平成27年9月1日時点で、全国のコメダ珈琲店645店舗のうち、496店舗は郊外型店舗であった。
他方、債務者(株式会社ミノスケ)は、TVゲーム事業、エンターテイメント事業等を主たる事業とする株式会社である。平成25年初頭、コメダ珈琲店のフランチャイズチェーンの店舗を開業したいと考え、コメダのフランチャイジーとして和歌山市内に喫茶店を出店したいとの希望を伝えた。しかし、当時、和歌山県下において既に株式会社ドリームがコメダのフランチャイジーとして営業しており、コメダはドリームによる店舗展開を尊重するとの経営判断に至った。そこで、コメダは、ミノスケに対し、コメダ珈琲店のフランチャイジーとして受け入れることができない旨を通知した。ミノスケは、コメダに対し再検討を依頼したが再度説明してこれを断り、その他のエリアであれば検討可能である旨伝えた。その後、ミノスケからコメダに対し連絡はされなかった。
そのような中、ミノスケは、平成26年8月16日、喫茶店である「マサキ珈琲」1号店の営業を開始した。(なお、平成27年9月17日には、1号店とほぼ同様の外観を有する「マサキ珈琲」2 号店の営業も開始している。)
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1428023より引用
マサキ珈琲1号店の営業開始直後から、コメダにはマサキ珈琲店とコメダ珈琲店との関係に関する問合せや報告が多数寄せられた。そこで、コメダ珈琲店のウェブサイトにおいて、「お客様よりお問い合わせをいただいておりますマサキ珈琲店(和歌山市〈以下省略〉)は、コメダ珈琲店とは一切関係ございません。」との告知をした。コメダは、平成26年8月29日、ミノスケに対し、店舗における営業行為を直ちに中止するよう請求する旨の通知書を送付したが、ミノスケは、マサキ珈琲店の営業を従前どおり継続した。
平成27年5月14日に、コメダは、(a) コメダ珈琲店の店舗外観、および(b) コメダ珈琲店で提供される商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示がコメダの営業表示に当たるとした上で、ミノスケが(a) マサキ珈琲店の店舗外観を使用すること、(a) 店舗内において提供される商品・容器の組合せによる表示を用いることは、それぞれ、コメダの営業表示と類似する営業表示を使用するものであり、不正競争防止法第2条1項1号または2号に該当する旨主張して、店舗外観等の使用を差し止める旨の仮処分を東京地裁に申立てをするとともに、本案訴訟を提起した。
本件における主な争点は、
(1) コメダ珈琲店の店舗外観、およびコメダ珈琲店で提供される商品・容器の組合せによる表示が、不競法第2条1項1号・2号所定の「商品等表示」に該当するか否か、
(2) コメダの表示の周知性ないし著名性の有無、
(3) マサキ珈琲店がコメダの表示と類似するか、および
(4) 混同のおそれの有無、
の4点である。
本決定
(1) 争点(1)について(店舗の外観および商品・容器の組合せが、不競法2条1項1号及び2号所定の「商品等表示」に該当するか)
本決定は、①店舗の外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、②当該外観が特定の事業者によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、店舗の外観全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不競法第2条1項1号および2号にいう「商品等表示」に該当するというべきである、との一般論を述べた。
その上で、本決定は、コメダ珈琲店の外観等が「商品等表示」に該当するかについて検討した。
①について本決定は、コメダ珈琲店は標準的な郊外型店舗の店舗イメージとして、来店客が家庭のリビングルームのようにくつろげる柔らかい空間というイメージを具現することを目して設計され、切妻屋根の下に上から下までせり出した出窓レンガ壁を含む外装は特徴的であり、半円アーチ状縁飾り付きパーティションを有する店内構造及び内装を更に組み合わせるとますます特徴的であり、客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有している、と判断した。
また、②について本決定は、平成15年以降にコメダの郊外型店舗の外観について標準化が進められ、コメダまたはフランチャイジーを通じて、かかる外観を有する店舗を継続的・独占的に使用してきたこと、コメダ珈琲店についてはテレビ番組や新聞・雑誌等で度々宣伝・報道がされ、郊外型店舗の外観も少なからず視聴者・読者等に知らされたこと(テレビ番組の中には、コメダ珈琲店の郊外型店舗の「ログハウス風」の外観に着目したナレーションが入ったものもあった)からすると、コメダ珈琲店(郊外型)の外観は、需要者の間に広く認識されるに至っていたと認められる、と判断した。
以上に基づき、本決定は、コメダ珈琲店の店舗外観は、不競法第2条1項1号および2号所定の「商品等表示」に該当すると判断した。
なお、コメダ珈琲店で提供される商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示については、本決定は、もともと飲食物と容器の組合せ表示のみでは、出所表示機能が極めて弱く、店舗外観以上に営業表示性を認めることは困難であるとした上で、商品(飲食物)と容器(食器)の組合せによる表示がコメダ珈琲店の営業表示である旨広く知られていたことや、特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得していたことを根拠付けるに足りる疎明がなされていないとして、不競法第2条1項1号および2号所定の「商品等表示」に該当するということはできないと判断した。
(2) 争点(2)について(コメダの表示の周知性ないし著名性の有無)
裁判所は、(1)において述べた理由から、コメダ珈琲店の店舗外観は、周知性を獲得していたと判断した。
(3) 争点(3)について(マサキ珈琲店がコメダの表示と類似するか)
裁判所は、コメダ珈琲店とマサキ珈琲店では、ライン飾り(化粧板)の形状およびデザイン、出窓レンガ壁部の形状および模様、屋根・壁・窓等の位置関係および色調、店内のボックス席の配置および半円アーチ状縁飾り付きパーティションの形状など多くの視覚的特徴が同一または類似していることから、全体として酷似していると述べ、類似していることは明らかであると認定した。
さらに、店舗の名称がそれぞれ「コメダ珈琲店」「KOMEDA'S Coffee」、「マサキ珈琲」「Masaki's coffee」と表示されているなどの相違点を考慮しても、全体として、類似していることを否定することはできないとも述べた。
(4) 争点(4)(混同のおそれの有無)について
本決定は、店舗が全体として酷似していること、現にコメダ珈琲店とマサキ珈琲店の関係について問合せ等が多数あったことなどを考慮すると、その使用主体とコメダの出所との間に資本関係や系列関係、提携関係などの緊密な営業上の関係が存すると誤認混同させるおそれ(いわゆる広義の混同のおそれ)があると認められると認定した。
(5) 結論
以上に基づき、本決定は、コメダはミノスケに対し、マサキ珈琲店の店舗建物使用の差止を請求する権利を有すると認め、仮処分決定を下した。なお、店舗建物の使用に加え、印刷物やウェブサイトへの店舗建物の写真および絵の使用禁止も認められた。
検討
本決定は、店舗の外観が不競法の「商品等表示」に該当することを認め、店舗の使用差止を認めたものである。いわゆる「トレード・ドレス」に基づく権利行使を実際に認めた判決ないし決定としては、本決定が最初のものであり、そのような意味においては、本決定の意義は非常に大きいということができる。
店舗の外観について争った過去の事件として、「ごはんや まいどおおきに ○○食堂」(○○の部分には店舗の所在地名が入る。)を運営する原告が、原告の店舗と類似する店舗を使用する行為が不競法に違反するとして争ったものがある。
この事件の第一審判決(大阪地裁平成19年7月3日判決(平成18年(ワ)第10470号))は、「店舗外観は、それ自体は営業主体を識別させるために選択されるものではないが、特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により、第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではないとも解され、原告店舗外観全体もかかる営業表示性を取得し得る余地があること自体は否定することができない」と述べたものの、「仮に店舗外観全体について周知営業表示性が認められたとしても、これを前提に店舗外観全体の類否を検討するに当たっては、単に、店舗外観を全体として見た場合の漠然とした印象、雰囲気や、当該店舗外観に関するコンセプトに似ている点があるというだけでは足りず、少なくとも需要者の目を惹く特徴的ないし主要な構成部分が同一であるか著しく類似しており、その結果、飲食店の利用者たる需要者において、当該店舗の営業主体が同一であるとの誤認混同を生じさせる客観的なおそれがあることを要すると解すべきである。」として、原告と被告の店舗は似ていないと判断して原告の請求を棄却した(控訴審判決(大阪高裁平成19年12月4日判決(平成19年(ネ)第2261号))も原審の判断を是認した。)
本件は、コメダ珈琲店とマサキ珈琲店の外観等が「酷似」していたという事案であったため、本判決からは、どこまで類似していれば建物の使用差止が認められるのかについては不明である。ただし、他の同種の店舗の外観とは異なる顕著な特徴が不競法の「商品等表示」に該当する要件の一つとされているため、かかる顕著な特徴について類似しているかどうかが問題となるといえる。
なお、本決定においては、コメダが訴訟提起および仮処分申立て後に、郊外型店舗外装について下記の立体商標を出願し、登録を得たことが認定されている。
コメダは上記の立体商標に基づく差止請求を行っていないが、立体商標が登録された事実は、店舗外観が、不競法の「商品等表示」に該当するという判断を得る上で有利に働いたと考えられる。
本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)
文責: 中岡 起代子(弁護士・弁理士)