平成28年11月30日号

商標ニュース

知財高裁、対比される商標から共通の称呼が生じたとしても、外観において明らかに相違し、その相違の程度が顕著であり、観念において比較することができない場合、出所混同のおそれはないとして、全体として非類似と判断

「エリエール\i:na\イーナ」(本願商標)について商標出願をした原告が、「いーな\e-na」(引用商標)と類似するとして特許庁より拒絶査定を受け、不服審判を請求したものの請求不成立審決を受けたことから、その審決の取り消しを求めて審決取消訴訟を提起した事案において、知財高裁は、平成28年1月28日、両商標は全体として非類似であるとして、特許庁の審決を取り消した(平成27年(行ケ)第10171号)。

本願商標
本願商標


引用商標
引用商標

本判決の要旨

本判決は、本願商標の要部である下段部分と引用商標は、「イーナ」の称呼が生じる点では共通するものの、観念において比較することができない上、外観において明らかに相違し、その相違の程度は顕著であること、さらに、取引の実情を考慮すると、本願商標および引用商標が本願商標の指定商品と同一または類似する商品に使用されたとしても、取引者、需要者において、その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえないから、本願商標と引用商標とは全体として類似しているものと認めることはできないと判断し、審決を取り消した。

検討

今年は、著名商標を含む結合商標の類否に関する注目すべき判決が相次いで出された。

「Reebok\ROYAL FLAG」事件(知高判平成28年1月20日(平成27年(行ケ)第10159号))もそうであるが、対比される二つの商標に同一の単語または酷似した語が含まれていても、それ以外の部分に著名商標が存在する場合には、全体として非類似と判断される流れができたように見える。

但し、本判決は、「リラ宝塚」事件(最判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁)の考え方(各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである。)を汲むものであり、本願商標に存在する二つの要部のうち、下段部分の要部と引用商標との類否を考察したうえで非類似と判断したものである。

一方の「Reebok\ROYAL FLAG」事件は、「つつみのおひなっこや」事件(最判平成20年9月8日判時2021号92頁(平成19年(行ヒ)第223号))の考え方(複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。)を汲むものであり、分離判断を許さず、全体として非類似と判断したものである。

しかしながら、いずれのケースでも、結局のところ、商標の類否判断は、外観・称呼・観念の考慮要素の他、一般的・恒常的な取引の実情をも考慮し、最終的には出所の混同のおそれの有無によって決すべきとする考え方がこれまでより前面に出ているように感じられる。このような判決の流れを「著名商標の横取り」という表現で批判する向きもあるようであるが、この判断の傾向はしばらく続くのではないかと思われる。

本判決の全文はこちら(外部ウェブサイト)

文責:加藤 ちあき(弁理士)