登録商標「耳つぼジュエリスト」について商標権を有する原告が、被告が自らのホームページに標章「耳つぼジュエリスト」を掲載し、被告が開催する講座の広告を行う行為は商標権侵害であるとして、被告に対して損害賠償を求めた事案において、知財高裁は、平成28年7月20日、かかる標章の使用は役務の出所を想起するものでないとして、商標権侵害を否定した地裁の判断を支持し、原告の控訴を棄却した(知財高裁平成28年(ネ)第10012号)。
事実関係
一般社団法人日本ボディジュエリスト協会(原告・控訴人)は、商標を「耳つぼジュエリスト」、指定役務を「資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,セミナーの企画・運営または開催」等(第41類)とする商標登録の商標権者であった。
(なお、本判決の認定によると、原告は、技能講習会の開催等によるボディジュエリストの人材の育成等を目的とする一般社団法人である、とのことであるが、その活動実態については明らかではない。原告自身の主張によれば、原告は「耳つぼジュエリスト」としてのサービスを検討中である、とのことであるが、他方で、原告は、「耳つぼジュエリスト」の商標の使用を開始していないことを自認している。)
Green GablesことY(被告・被控訴人)は、「Green Gables」という屋号で、インターネット上にホームページを開設し、自身が開催する「EJA耳つぼジュエリー初級講座」の広告として、「耳つぼジュエリストになるための講座」という記載を掲載した。
原告は、被告の行為は原告の商標権を侵害するとして、被告に対して8万1000円の損害賠償を求め、横浜地裁横須賀支部に提訴した。
地裁判決(原判決)は、被告は自身の開催する講座の広告において原告の登録商標を使用したものの、講座の内容を説明・表現するために記述的に用いたに過ぎないとして、原告の請求を棄却した。
原告は、原判決を不服として、知財高裁に控訴した。
本判決
知財高裁は、被告による商標権侵害を否定し、控訴を棄却した。
本判決は、被告の標章は、原告の商標と類似すると認定した。
しかしながら他方で、本判決は、商標権の侵害にあたるというためには、その標章が、商品・役務出所表示機能、自他商品・役務識別機能を発揮する態様で、すなわち、需要者が何人かの業務に係る商品または役務であることを認識できる態様で使用されていることが必要であると述べた。その上で、本判決は、被告の標章の使用が商標権侵害となるかについて、下記の各事情を考慮し、検討した。
(1) 被告は、EJA耳つぼジュエリー協会の認定講師として、EJA耳つぼジュエリー初級講座を開催して広告を行っているが、「EJA耳つぼジュエリー協会」は相当数の個人や法人にEJA耳つぼジュエリー協会の認定講師である旨表示して、講座を運営し、受講者に対して「耳つぼジュエリー」の施術を教えている。
(2) 被告の他にも、一定数の者がインターネット上で「耳つぼジュエリスト」を養成する講座を開催・運営している旨の広告を行っている。
(3) 被告のホームページには、「Green Gables」という屋号があり、「耳つぼジュエリストになるための講座」という記載は、一つの文章の一部であるとの印象を与える。
本判決は、上記の各事情に照らすと、本件の需要者が被告の「耳つぼジュエリストになるための講座」という表示を含むホームページを見た場合、「Green Gables」が講座を運営し、その広告を掲載しており、「耳つぼジュエリスト」とは、「耳」の「つぼ」を「ジュエリー」で飾る施術を行う者であり、「耳つぼジュエリストになるための講座」とは、そのような施術を行う技術を享受する講座と理解するのであって、「耳つぼジュエリスト」という標章から役務の出所を想起することはないから、被告の標章の掲載は、「登録商標に類似する商標の使用」(商標法第37条1号)には該当しないと判断した。
検討
被告が登録商標に類似する標章を使用した場合において、形式的には、被告の行為が標章の「使用」(商標法第2条3項)に該当する行為であっても、標章の使用態様を考慮し、標章の使用が自他商品・役務識別機能を発揮しない場合には商標権の侵害を構成しないとする裁判例は多数あり、定着した考え方であるといえる。
本件は、標章の使用から需要者が受ける認識(需要者は、「耳つぼジュエリスト」の標章を見た場合に、「耳」の「つぼ」を「ジュエリー」で飾る施術を行う者であると認識)、標章が使用されたホームページから需要者が出所を通常どのように判断するかを考慮し、被告の行為は登録商標の「使用」には該当しないと判断したものであり、裁判例の流れに一事例を加えるものといえる。
なお、同日付で、他に2件、同一の商標権者による損害賠償請求控訴事件に対する判決が下されている(知財高裁平成28年(ネ)第10013号、同第10014号)が、理由づけは、本件と同様である。
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(文責:中岡 起代子(弁理士・弁護士))