平成28年8月31日号

特許ニュース

東京地裁、被告製品のメンテナンス行為も差止めの対象になると判断

原告が被告に対し、物の発明にかかる特許に基づき、被告製品の譲渡等の差止めに加え、被告製品に関する部品の交換等のメンテナンス行為の差止めを求めた事案において、東京地裁は平成28年6月30日、被告製品の譲渡等に加えてメンテナンス行為の差止めをも認めた(東京地裁平成27年(ワ)第12480号)。

事実関係

原告(フルタ電機株式会社)は、「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」と題する発明(本件各発明)について、特許(本件特許)を有する者である。

原告は、被告ら(株式会社ニチモウワンマン他3名)による生海苔異物除去機(被告装置)の販売が本件特許を侵害するとして、被告らに対し、損害賠償(不当利得返還)請求の他、差止め請求として、①被告らによる被告装置の譲渡等の差止め、②被告装置の部品である固定リングおよび板状部材(本件各部品)の譲渡等の差止め、並びに、③被告装置および本件各部品の廃棄を求めた。
また、原告は、これらに加え、④被告らによる被告装置のメンテナンス行為の差止めをも求めた。原告が差止めを求めた具体的なメンテナンス行為は、
(1) 被告装置に、部品である固定リングまたは板状部材を取り付ける行為(本件メンテナンス行為1)、および
(2) 被告装置の点検、整備、部品交換または修理(本件メンテナンス行為2)
であった。

本判決

東京地裁は、平成28年6月30日、原告の請求を一部認容する判決をした。

被告装置が本件発明の構成要件を充足することについては、当事者間に争いは無く、本件における争点は、
(1) 本件発明に係る特許が特許無効審判により無効とされるべきものか、
(2) 被告の行為について共同不法行為が成立するか、
(3) 差止請求権の存否および範囲、並びに、
(4) 損害額または不当利得額(消滅時効の成否を含む。)
であったところ、本判決は、争点(1)については、本件特許には無効理由は無いと判断し、(2)については共同不法行為の成立を否定し、争点(4)については、合計約1500万円の損害賠償を認め、消滅時効の成立は否定した。

争点(3)について、本判決は、被告装置が本件各発明の技術的範囲に属することに争いはなく、また、本件各部品は被告装置の生産にのみ用いる物(特許法第101条1号)に該当するとして、被告らによる被告装置および本件各部品の譲渡等の差止め、並びに、被告装置および本件各部品の廃棄を認めた。

他方、被告らによるメンテナンス行為については、本判決は、本件メンテナンス行為1の差止めは認めたが、本件メンテナンス行為2の差止めは否定した。

本件メンテナンス行為1について、本判決は、製品について加工や部材の交換をする行為であっても、当該製品の属性、特許発明の内容、加工および部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して、その行為によって特許製品を新たに作り出すものと認められるときは、特許製品の「生産」(特許法2条3項1号)として、侵害行為に当たると解するのが相当である、と述べた。
その上で、本判決は、本件各発明にかかる共回り防止装置は、回転板方式の生海苔異物分離除去装置において共回りの発生をなくし、クリアランスの目詰まりの発生を防ぐものであるところ、被告装置に取り付けられる固定リングおよび板状部材は、被告装置の使用に伴って摩耗するものであり、このような摩耗によって共回り、目詰まり防止の効果を喪失した被告装置は、もはや「共回り防止装置」には該当しないから、固定リングまたは板状部材を交換する行為は「共回り防止装置」を新たに作り出す行為であり、「生産」に該当するとして、差止めを認めた。

他方、本件メンテナンス行為2については、本判決は、かかる行為は「生産」に該当せず、また、仮に、被告装置の使用という実施行為の幇助と評価される余地があるとしても、幇助行為の差止めを認める規定は存在しないと述べ、差止めを否定した。

検討

特許製品の加工・部品交換行為については、インクカートリッジ事件に関する最高裁判決(最高裁平成19年11月8日第一小法廷判決)により、「我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ、それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは、特許権者は、その特許製品について、特許権を行使することが許される」と解釈されている。これは、加工・部材交換後の製品が、元の製品と同一性を欠く新たに「製造」された製品であるか否かについての判断である。

本件では、部品の交換行為自体が発明の実施態様としての「生産」に該当するかについて判断されている。そして、本判決は、加工・部材交換行為について、「当該製品の属性、特許発明の内容、加工及び部材の交換の態様のほか、取引の実情等も総合考慮して、その行為によって特許製品を新たに作り出すもの」と認められるときは、新たな生産行為に該当し、差止めの対象となると判断した。

本判決は、被告製品のメンテナンス行為であっても一定の場合には差止めの対象になることを認めたものとして、着目される。

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(文責:石原 一樹(弁護士))