平成28年5月19日号

海外商標ニュース

米国(商標):ニューヨーク連邦地裁、ルイ・ヴィトンを模したキャンバストートバッグはフェア・ユースであると判断

ルイ・ヴィトンのかばんを思わせるようなデザインを組み込んだキャンバストートバッグの販売に関し、ニューヨーク州南地区連邦地裁は、2016年(平成28年)1月6日の判決において、当該バッグはパロディでありフェア・ユースの範囲内であると判断し、ルイ・ヴィトン社の商標権侵害の主張を排斥した(Louis Vuitton Malletier, S.A. v. My Other Bag, Inc., 14-CV-3419)。

本件における原告は、かの有名なルイ・ヴィトン社である。他方、被告であるMy Other Bag社は、ロサンゼルスにおいて2011年に創業し、片側に「My Other Bag ...」、反対側にルイ・ヴィトン、シャネル、セリーヌ、フェンディ等の様々なブランドを模したデザインをプリントしたエコトートバッグやポーチ(被告製品)を製造、販売していた。被告のバッグの価格帯は、トートバッグであれば35~55ドル程度、ポーチであれば25~45ドル程度であった。

被告のバッグ被告のバッグ
被告のバッグ
(被告ウェブサイト(http://www.myotherbag.com/)より引用)


2014年5月12日、ルイ・ヴィトン社は、My Other Bag社を被告として、商標の希釈化(Dilution)、商標権侵害、著作権侵害を主張してニューヨーク州南地区連邦地裁に訴訟を提起した。当事者双方ともに略式判決を求めたところ、本件の裁判官は、被告による略式判決の請求を全て認容し、原告による略式判決の請求を棄却した。これにより、ルイ・ヴィトン社は敗訴した。

本判決においては、原告の主張の中でも、とりわけ商標の希釈化の有無について検討がなされている。米国連邦商標法(Lanham Act)は、商標の希釈化(識別力の強い著名商標に近い商標を使用することにより、著名商標の識別力を低下させること)をもたらす行為に対して、著名商標の権利者が訴訟を提起することを認めている。ただし、ここで注意すべき点は、同法が、パロディの抗弁を明文の規定で認めている点である。

実際に本判決においては、被告製品は原告製品のパロディに過ぎず、フェア・ユースの範囲内であるとの判断が下された。
被告製品においては、片側に被告社名である「My Other Bag…」が大きく印字されており、反対側のみにルイ・ヴィトンを思わせるようなデザインが描かれていたが、ルイ・ヴィトンの製品においては「LV」と表示されている箇所が、被告製品では「MOB」に置き換えられていた。
本件の裁判官は、パロディとは、これに接した需要者に「商標権者とは別個独立の第三者が当該商標または商標権者のポリシーをからかっていること」を伝えるものであり、「被告が商標権者とは何の繋がりも無いこと」を明示するものであるところ、被告製品はこれに該当すると判断した。すなわち、米国においては「My other car is ...(私の他の車は…です)」(※ 「…」には高級車のブランド名等が入る)と書かれたシールを安物の自動車に貼るという有名なジョークが存在するところ、被告製品はこれをもじったものであり、「My Other Bag ...」と表示することで、当該バッグ以外に有しているバッグがルイ・ヴィトンであるという観念を想起させ、ルイ・ヴィトンの高級なバッグと安物である被告製品とのを対比を面白がる、というコンセプトのものであり、これはパロディに他ならない、と判断した。

ルイ・ヴィトン社については、同社のバッグに似せた犬用のおもちゃ「Chewy Vuitton」がパロディであるか否かが問題となった事案(Louis Vuitton Malletier, S.A. v. Haute Diggity Dog, LLC, 2007)において、連邦第4巡回区控訴裁判所は、ルイ・ヴィトン社のバッグがペットショップやギフトショップに安価な価格で陳列されていることは想定し難いため、混同の恐れはなく、被告商品はパロディとして成功しているとして、商標権侵害には当たらないと判断している。

「Chewy Vuitton」
「Chewy Vuitton」
(Haute Diggity Dog社ウェブサイト(http://www.hautediggitydog.com/products/white-chewy-vuiton-purse)より引用)


他方で、スーパーマンの胸の「S」マークを「DAD」に置き換えたTシャツがパロディであるか否かが問題となった事案(DC Comics v. Mad Engine, Inc.,2015)においては、カリフォルニアの連邦地裁は、原告もライセンシーを介して様々なTシャツを販売していた例があることから、出所の混同が生じやすく、被告はパロディというよりは原告の著名な商標を利用して利益を得ようとしているに過ぎないとして、原告の侵害主張を認めている。

「DAD」Tシャツ
「DAD」Tシャツ
(判決文より引用)


憲法修正第1条における表現の自由に紐づけ、パロディの抗弁を広く認める傾向にある米国においては、パロディ製品であるか単なる侵害品であるかの線引きは難しいことが多い。ただし、各判例の考え方から察するに、商品の内容、価格帯、販売方法・場所等から総合的に判断した場合、およそ原告製品と被告製品との判別が容易であるか否か、パロディと言える程度に何らかの主張の要素が被告製品に見受けられるか否か、が判断の要となっていると考えられる。
もっとも、実際には、原告の商標が著名であればあるほど安価な模倣品のような製品との乖離は顕著となり、商標権侵害あるいは商標の希釈化という主張は認められにくくなるとも考えられる。
本判決および上記各判例の考え方も、必ずしも一貫している訳ではないと思われるが、今後、フリーライドの抑止との兼ね合いから、本件が控訴された場合には、その行方が気になるところである。

判決全文(英語)はこちら(外部ウェブサイト)

(文責:山崎 理佳(カリフォルニア州弁護士))