平成28年3月4日号(臨時号)

海外商標ニュース

改正CTM規則のポイント(2): ニース分類におけるクラスへディングを指定した商標の取扱いの変更

CTMに関しては、2012年のIP Translator判決以降、ある区分のクラスヘディングのみを指定することで当該区分に属する商品・役務を幅広く包含する、ということができなくなった。今回の改正規則により、今後は更に、2012年6月22日よりも前の出願にかかる商標に関しても、クラスヘディングのみを指定した商標については、当該指定商品・役務の書換をしない限り、原則として指定された文字通りの商品・役務しか含まないものと解されるようになる。そのような事態を回避するためには、2016年9月24日までに宣誓書をOHIMに提出する必要がある。

CTMにおいては従来、ニース分類における各区分のクラスヘディングを指定することで、当該区分に属する商品・役務を幅広く含むものと理解されていた。しかしながら、欧州連合司法裁判所 (ECJ)が2012年6月に言い渡したIP Translator判決は、そのような運用を否定した。そのため、IP Translator判決以後は、クラスヘディングの指定のみでその区分に属する商品・役務を幅広く包含することができなくなり、意図する商品・役務を明確に書き出さなくてはいけなくなった。

今回の改正で特徴的なのは、IP Translator判決以前に出願された商標に対しても、IP Translator判決以後に出願された商標と同様の扱いをすることである。
すなわち、後述する宣誓書の提出が可能な期間が経過した後の2016年9月25日以降においては、既存のCTM登録は、IP Translator判決以前の出願であるか否かに関わらず、一律に、たとえクラスヘディングの指定であっても、その記載から通常意味するであろうと明確に考えられる記載を、その文字通りに指定したものとみなされることとなる。

そこで、IP Translator判決以前に出願された商標に対する弊害を解消するために、今回の改正施行日から6ヶ月の期間内において、出願当時、クラスヘディングが意味する文字通りの商品・役務以外にも包含することを意図していた商品・役務を特定することができる期間が設けられた。
当該期間は、2016年3月23日から9月24日までの6ヶ月間であり、出願当時、クラスヘディングから明確に含まれると判断される記載以上に商品・役務を含めることを意図して出願していたという場合には、当該期間内に、意図していた商品・役務の記載を明示した宣誓書をOHIMに提出する必要がある。この期間に宣誓書の提出を行わなかった場合には、前述の通り、2016年9月25日以降においては、文字通りの意味の商品・役務のみを含んでいるものと解されるため、以後の権利行使などの場面で弊害が生じる可能性がある。

クラスヘディングに見られる広い表記の例としては、例えば、第7類のmachines、第9類のapparatus for~、第14類に見られるようなgoods in precious metals or coated therewith, not in other classesといったような記載がある。
ただ、OHIMによれば、今回の宣誓書の意図は、記載を特定して指定し直すことではなく、あくまで、現状の記載を明確にすることである。この点、OHIMは、現時点で明らかにクラスヘディングのみの記載では含まれないと考えられる商品・役務の記載を(網羅的ではないものの)列挙した参考資料を公表しており(本文別紙。いずれも外部リンク)、商標権者が宣誓書提出の要否を検討する当たっては、当該資料を参照すると良いと思われる。当該資料において、ある商品・役務がクラスへディングに包含されないことが明記されている場合には、今後の権利行使において、当該商品・役務を含める意図で出願したという主張ができなくなると予想されることから、特に注意して確認する必要があると思われる。

OHIMが公表した前記資料全体から受ける印象としては、機械、装置、工具等の大枠の商品名が挙げられているに過ぎないクラスへディングの場合、細かな部品などはこれに含まれない、とされている傾向が窺える。
一例を挙げると、第10版のニース分類に関しては、下記に列挙する記載は各区分のクラスへディングに含まれないものとされているため、宣誓書の提出条件(*)を満たしている場合には、宣誓書の提出が必要となる。(なお、下記はあくまで各区分においてクラスへディングに含まれないとされている商品・役務の中でも、特に問題となりそうなものを列挙したものに過ぎず、網羅的な列挙ではないので、注意されたい。)

第9類: downloadable image files; downloadable music files; downloadable ring tones for mobile phones; elecronic publications, downloadabale; cell phone straps; animated cartoons; eyeglass cases; mouse pads

第12類: air bags [safety devices for automobiles]; automobile tires [tyres]; baskets adapted for cycles; bicycle stands; brakes for vehicles; cycle saddles; gears for cycles; safety belts for vehicle seats; safety seats for childres, for vehicles; vehicle seats

第18類: umbrella covers; frames for umbrellas or parasols; umbrella handles

第26類: badges for wear, not of precious metal; barretts [hair-slides]; beads other than for making jewelry; brooches [clothing accessories]

第30類: flavorings, other than essential oils; sushi; cheeseburgers [sandwiches]; spring rolls

第41類: providing on-line electronic publications, not downloadable; publication of books; publication of electronic books and jornals on-line

しかしながら、上記以外にもグレーゾーンと呼ばれる領域、すなわち、現時点ではOHIMが明確に判断を示していないものの、クラスヘディングに含まれるか否かの判断が今後行われる商品・役務がある。

商標権者が採るべき対応として無難と考えられるのは、明確に保護したい商品・役務があり、それがクラスヘディングの文字通りの意味に包含されるか否かが不明である場合には、とりあえず、宣誓書を提出しておくことである。宣誓書の提出に際しては、オフィシャルフィーの支払いは不要であり、代理人の手数料のみが発生する。また、宣誓書を念のため提出したが、商品・役務がクラスヘディングの中に含まれるため、別途明示する必要がないと判断された場合には、その旨OHIMより拒絶通知を受けることになる。

(*)クラスヘディングに含まれていないと判断される可能性のある商品・役務を明示するための宣誓書の提出が可能であるのは、

(1)2012年6月22日よりも前に出願されたCTMであり、かつ、

(2)少なくとも一つの出願区分において、クラスヘディングの全てを指定している登録商標に限られる。

従って、クラスヘディングを部分的にしか含んでいない場合には宣誓書を提出することはできないが、クラスヘディングが全て指定されており、それに加えて、その他の商品・役務が列挙されているという場合には、宣誓書の提出を試みることが可能である。

なお、EU域内の国内商標に関しては、IP Translator判決以前に出願された商標であっても、CTMのような宣誓書の提出は認められておらず、改正規則の施行以後は、文字通りの商品・役務のみを指定しているものと解釈されることになる。

ひとまずは、2016年3月の早いうちに、CTMのポートフォリオの見直しを開始することを推奨する。2012年6月22日よりも前に出願されたCTMの登録商標を保有している場合には、当時のニース分類のクラスヘディングをそのまま指定した記載が含まれているかどうかを確認した上で、そのような記載があり、なおかつ具体的に指定したい商品・役務が明示されていないと思われる場合には、宣誓書の提出を検討すべきであろう。いずれにしても、9月までに一度は、保有されているCTMのポートフォリオ全体を見直す機会を設けることを、強く推奨する。

(文責: 山崎理佳(カリフォルニア州弁護士))