平成28年1月22日号

海外商標ニュース

英国(商標):CTMの「真正な使用」について、1ヶ国のみの使用では十分でないと判断

英国のIPEC (Intellectual Property Enterprise Court)は、2015年(平成27年)6月29日、Community Trade Mark(CTM, 欧州共同体商標)の登録を維持するためには、2か国以上のEU共同体の加盟国において商標を真正に使用することが要求されると判断した([2015] EWHC 1773 (IPEC))。

原告は「SOFA WORKSHOP」という2件のCTM商標の所有者であり、この2件の商標は国際分類第18、20、24、および35類の商品・サービスをカバーしていた。原告は、被告の「sofaworks」商標の使用に対し、上記2件のCTM商標の商標権侵害と伝統的商標侵害(パッシング・オフ)を主張して提訴した。

原告の商標
原告の商標
(原告ウェブサイト(http://www.sofaworkshop.com/)より引用)

被告は、「SOFA WORKSHOP」という商標は、指定商品・役務について識別力がなく、登録は無効だとの抗弁を主張した。さらに被告は、仮に原告商標が識別力を有していたとしても、過去5年間、欧州において真正に使用されていたとは言えないから、不使用によって取り消されるべきだと主張した。

IPECの判事は、原告の「SOFA WORKSHOP」という商標は、記述的であり、識別性に欠けており、その登録は無効理由を含むものである、としつつも、英国においては、ソファや関連製品について使用による十分な識別力を獲得していたと判示した。

しかしながら、判事は、不使用の抗弁については、原告の提出した使用証拠はすべて英国でのものに限られ、欧州の他の英語を話す国々での使用例が見当たらず、これでは、他の英語を話す欧州各国では依然として使用による識別力は発揮されておらず、その登録は識別力の欠如を理由に無効と言わざるを得ないと認定した。

欧州の1か国のみにおける商標の使用が、CTM登録を維持するのに十分か否かについて、判事は、CTMにおいて地域的な使用の程度は、極めて重要な考慮要素であり、少なくとも1か国の境界は超えなければならない(ただし、商品・役務の市場の特殊性から1か国に限定されることはあり得る)と述べた。

結論として、判事は被告が主張した不使用の抗弁を認め、原告の商標権侵害の請求を否定した。(もっとも、判事は、伝統的商標侵害(パッシング・オフ)に基づく請求は認めた。)

欧州各国へ商標出願をする際、2か国以上において使用する場合には、CTM出願を行うことが通常である。この場合、CTMの利点として、「商標の使用に関し、加盟国のうち1ヶ国において使用していれば、不使用を理由に無効とされることはない」ということが、これまで一般的に挙げられてきた。
しかしながら、今回の判決は、上記の考え方を否定するものであり、多くのCTM所有者に不安を与えるものである。
今後は、英国でしかCTMを使用していないような場合に、欧州地域のより広い範囲で使用するよう留意すべきかもしれない。本判決は、EUにおける取引の基本的な考え方である「borderless」と相容れないものであり批判もあるが、いずれにしろ、欧州地域における自社所有のCTMの使用状況を定期的に把握することは、今後、より肝要になると思われる。

判決全文(英語)はこちら(外部ウェブサイト)

(文責: 加藤ちあき(弁理士))