インターネット上のショッピングモール内の店舗で販売される製品が特許侵害品であるとして、特許権者がモールの運営者に対して当該製品の販売差止等を求めた事案において、知財高裁は平成27年10月8日、モール運営者が当該製品を販売しているとは認められないとして、特許権者の請求を棄却した(知財高裁平成27年(ネ)第10097号)。
原告(株式会社チャフローズ・コーポレーション)は「洗浄剤」の発明についての特許を有する者であるが、被告(楽天株式会社)がインターネット上で運営するショッピングモール「楽天市場」において販売されていた洗剤などの製品が原告の特許を侵害するとして、被告に対し、当該製品の販売停止等を求めて提訴した。
第一審判決(東京地裁平成27年3月24日判決(平成26年(ワ)第23512号))は、文言侵害および均等侵害を否定し、原告の請求を棄却したため、原告が控訴した。
知財高裁は、「楽天市場」は出店者が被告との契約に基づいて出店者の物品の販売または役務の提供を行うものであり、これらの取引は出店者と顧客との間で行われるものであって、出店者の製品を被告自らが販売しているということはできない、と判断した。
なお、原告は、被告が共同不法行為責任を負うとも主張したが、知財高裁は、特許法100条1項に定める「特許権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」とは、自ら特許発明の実施(特許法2条3項)または特許法101条所定の間接侵害行為を行った者(または、そのおそれがある者)を意味し、特許権侵害の教唆・幇助をした者はこれに含まれない、と判断した。その理由として、知財高裁は、民法上、不法行為に基づく差止めは認められておらず、特許法に基づく差止めは特許法により特に定められたものであることや、特許権侵害の教唆・幇助行為に対して差止めを認めると、差止めの範囲が広範に過ぎるなどの弊害が生じるおそれがあり、このような弊害に鑑みて特許法101条の間接侵害の規定は、幇助行為の一部の類型に限り侵害とみなして差止め対象としたものであること等を挙げた。
また、知財高裁は、文言侵害および均等侵害の有無についても念のため検討し、いずれも否定した。
結論として、知財高裁は、原告の控訴を棄却した。
なお、原告は、「Yahoo! ショッピング」を運営するヤフー株式会社に対しても同様の訴訟を提起したが、知財高裁は上記事件とほぼ同一の理由により原告の主張を排斥している(知財高裁平成27年10月8日判決(平成27年(ネ)第10059号))。
インターネット上のショッピングモールにおける物品の販売について、モールの運営者に対して差止めを請求することができるか否かが問題となった他の事件としては、「チュパチャップス」の商標権者が、同じく楽天株式会社を提訴した事件(知財高裁平成24年2月14日判決(平成22年(ネ)第10076号))がある。同事件において、知財高裁は、侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず、社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能であるとして、一定の場合にはモールの運営者が商標権侵害に基づく差止請求の相手方になり得ることを認めた(ただし、結論としては差止めを否定)。このように、同事件において知財高裁は、商標権侵害に基づく差止請求の相手方となり得る者について、商標法に規定する「使用」行為または間接侵害行為を行った者に必ずしも限定されないとする、緩やかな見解を採用している。
これに対し、本判決における知財高裁は、特許権侵害に基づく差止請求の相手方となり得る者について、これを、特許法に規定する「実施」行為または間接侵害行為を行った者に限定する、厳格な見解を採用した。
このように、モールの運営者が差止請求の相手方となり得るか否かについては、商標権侵害の場合と特許権侵害の場合とで、知財高裁の見解が分かれることとなった。商標権侵害と特許権侵害とで異なる扱いをする理由は、「チュパチャップス」事件判決または本判決において必ずしも明確に示されているとはいいがたく、今後、知財高裁または最高裁によって統一的な見解が示されるかどうか、着目されるところである。
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(文責: 乾裕介(弁護士・弁理士・ニューヨーク州弁護士))